手の大きさを比べる一連の流れを思い浮かべてみてほしい。開いた手のひらと手のひらを合わせる。意外とあったかかったり、つめたかったり。なんかしっとりしてたりしてね。握手とも違う。手を繫ぐのとも違う。独特な距離感と相互作用の、まあ、ふれあいですよね。ボディタッチですよね。さて、ところで、思い浮かべた相手は誰?

 最近、比べてねえなあー、と思った。小学生の頃とか、やたらめったら手の大きさを比べていたような気がする。別に男女のどうこうじゃなく、男子同士でも普通に。まだ発育途中だったからかもしれない。ある時点では手が小さかった者も、もしかしたら逆転する可能性があったから。

 そういや手は、いつの時点で成長を止めてしまったのだろう。身長が止まったのと同じなんだろうか。考えたこともなかった。足の大きさが固定されるのは靴のサイズが変わらなくなることで間接的にわかる。じゃあ手の大きさは? 手袋のサイズ? そんなこと、意識したことなかったなあ。

 測ったことがあるわけではないけれど、僕の手の大きさはいつかの時点から変わっていないはずだ。たぶん、大人はだいたいそうだ。そりゃ手の大きさをしょっちゅう比べることがないわけだ。何度比べても、もう変わらんし。

 ただ、きっと大人でも平均よりも手の大きい人、または手の小さい人なんかだと、手の大きさを比べる機会も多いのではないだろうか。というのも相手に気づかれるにせよ、自分から話すにせよ、話題になりやすいのではないかと思うから。もちろん畏まったビジネスの場でいきなり手と手を合わせるということはないだろうが、ちょっとした雑談やら、なんなら酒席とかのくだけた場なら。と、平均的な手の大きさの僕は想像するしかないのだけれど。男と女でも違うか。

 体の他の部位と同じく、手の大きさも基本的には体格に比例することが多い、が、必ずしもそうではない。少年野球でクリーンアップを打っていた同級生は、その体格からはギャップのある小さな手をしていたのをなぜだか今でもおぼえている。レフトの後ろ、グラウンドの外にある体育館の屋根に打球が当たるような、豪快なホームランをぶち込むことができるパワフルな男である(少年野球でランニングホームランではないホームランを僕はそのとき初めて見た)。野球には、少なくともバッティングには手の大きさは影響しないのかもしれない。詳しくは知らないが。

 同じ野球でもピッチングには手の大きさが影響するだろう。小さな手では投げにくい、投げられない球種というものもあるはずだ。マンガ『ドカベン』の殿馬は手の小ささ故に指の股を手術で広げていたし(それは野球のためでなく、ピアノのためだったわけだが)、逆に『ペナントレース やまだたいちの奇蹟』の山田太一はその手の小ささ故にアホみたいな無回転の変化球を投げることができた。

 僕の妻は手が小さめなので、体育ではバスケットボールだけが苦手だった、と言っていた。ボールが大きいから上手く扱えないのだそうだ。『SLAM DUNK』で、主人公の桜木花道がバスケットボールを片手で鷲づかみにしながら走る、というシーンがあって、それは桜木花道の体格のでかさ(一八八センチ。後にちょっと伸びる)を表してもいるのだが、バスケットボールを片手でつかめたらそもそもめっちゃ有利だと思う。球技だけではない。格闘技なんかは当然、柔道着をつかむにせよ拳で殴るにせよ手が大きいほうが有利だろうし、水泳だって水を掻く手が大きいほうが力強く前に進むだろう。

 そうそう、楽器なんかスポーツよりもシビアかもしれないな。それこそ殿馬のようなピアニストや、ギター、ベースも。中学の音楽の授業でアルトリコーダーを初めて手にしたとき、こんなん押さえられるわけないだろって思ったっけな。実際どうしても指が届かなかった女子とかいそうだよな。そしてまた、アルトリコーダーに慣れた頃にソプラノリコーダーを手にしたときの、あの極端な小ささな。あれな。

 スポーツにせよ楽器にせよ、手の小ささが原因でそれを諦めた人というのはいるのだろうか。趣味や一般的な部活動のレベルでは考えにくいが、プロのような高いレベルではあるのかもしれないなあ。あるいは、そもそも始める選択肢に入らない、というのも。背を高く伸ばそうとしてカルシウムをたくさん摂るとか、そういう話はよく聞くが、手を大きくしようとして策を講じるなんてことがあるのかしら。

 そんなこんなのよしなしごとを書き連ねる僕の家には今、赤ん坊がおりまして、たいそうかわいらしいサイズの手でもって僕の差し出す指をぎゅっと握るわけでありまして、いったい僕はこれから何千何万回、この手と大きさを比べるのだろう。ああ、そういえば僕の手の大きさが、父のそれを超えたのはいつのことだったのだろう、などと思う。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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