#146 ワープロ

2016.06.23

 最近、ワープロの新聞広告を目にする。パソコンではない。ワープロソフトでもない。ワープロである。

 新商品だったらすごいと思ったけれど、そういうわけではなかった。中古品なのかデッドストックなのか要は昔のワープロを修理・メンテナンスして使えるようにしてあるものらしい。一例として値段が書かれている。けっこうする。

 これだけパソコンが普及して、携帯電話も、スマホもタブレットもあって、それでもワープロを愛用する人がいるということは、実は以前にも聞いたことがあった。雑誌『Re:S』がワープロを特集していて、その号は二〇〇六年の発行だったからもう十年も前になるのだけれど、この時点でワープロはとっくに製造されていなかったはずだ。「今、あえてワープロなんだ」という旨の記事だった。神戸の中古ワープロ専門店とかが載っていた。

 作家の中には今もワープロをメインの仕事道具として愛用している人がいるとかいないとか。実際どうなんだろうか。今もフロッピーで原稿をもらう編集者とかいるのだろうか。中学の頃に読みあさった原田宗典のエッセイに、登場し始めたばかりでまだ高価だったワープロを奮発して購入した話があった記憶がある。たしか、文字が下手だったからワープロが絶対欲しかった、という話で、悪筆の僕はとても共感したのだが、最近ネットで見る彼の肉筆は決して汚くないので裏切られた気分である。なんだよ、ムネノリ困ってないじゃん。

 ワープロがビジネスの第一線にいた時代を経験した人々からすれば、文書作成するだけならワープロが一番だろう。もちろんパソコンだって文書作成はできる。ただ、町内会の文書作成だけができればいい人にとってパソコンがトゥーマッチな代物であることは想像に難くない。新聞の読者層が年齢高めになっていることを考えれば、ワープロの広告が「新聞広告」であったことはしごく真っ当に思える。つまりワープロは、懐かしの名曲全集や健康食品や膝サポーターなんかと同じ層に売れるのだ。

 と、あたかも老人の道具であるかのように書いているけれど、僕自身、ワープロへの憧れは強い。僕のような文書作成がひとつの生業であり、また趣味でもある人間にとって、ただ文書作成に特化した専用機というのはとても魅力的である。よく言われることだが、パソコンには気を散らせるものが多すぎる。特にインターネット。余計なものを表示せず集中しやすいインターフェースを工夫したソフトウェアもあるにはあるが、使い勝手の点でいまいちだったりとなかなかメイン使用に至らない。

 ワープロ、たしかに高いが買えなくはない。ただ、そもそも本体が製造終了となっていること、メンテナンスや消耗品の調達が難しいこと、本体がでかくて重いことなど、継続的な利用にはハードルが高そうだ。真剣に検討したことはないけれど。

 ワープロそれ自体への憧れというよりは、ワープロ的なものへの憧れなのだと思う。それはつまり、単機能スタンドアローンへの憧れである。表計算も動画の再生もSNSも必要ない。ただ文章が打てればよいのだ。

 そんな僕を大興奮させたのが、キングジムの「ポメラ」であった。折り畳み式キーボードを備えたテキストデータ作成専用機。パソコンより安く、軽く、乾電池で長時間動く。震えた。たまらんかった。すぐに買った。僕の人生で後にも先にも「こんなんが欲しかった」がこれほど真芯にジャストミートして場外ホームランとなったことはなかった。小林製薬も真っ青の「あったらいいな」がそこにあった。

 残念ながら部分的に壊れてしまったのと、ほどなくノートパソコンを購入し、その他もろもろの事情を検討した結果、現在ポメラは現役引退状態である。ただ、いつか再び最新型を購入して使い倒したいなーと思っている。どうやって使ってやろうかを考えるだけでニヤニヤが止まらない。それだけで酒が飲める。ポメラ大好き。

 ワープロに話を戻すと、実を言えば、僕はワープロのことをよく知らない。残念ながら育った家にワープロはなく(まったく必要なかったので)、僕が大人になったときは既にパソコンが普通の世の中だった。なので、ワープロを持っていたことも仕事で使ったこともないのだ。僕が中学、高校の頃ぐらいまでは、学校のプリントはワープロで作成されていたような気がする。職員室にワープロがあったと思うのだが、どうだったっけか。

 小学校の頃、友達の家にワープロがあって、それをワクワクしながら打たせてもらったのを今でも覚えている。人差し指で一つひとつキーを打って、変換して。何を打ったかも覚えている。野球少年は自分の選手情報を打った。右投げ右打ち、背番号、ポジション、打つのが得意なコースは外角高め。印刷した小さな紙片を大切に持ち帰って、大事にしまった引き出し。今、あのワクワクを思い出しながら文章を打ってみるのもいいかもしれない。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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