#142 廃番

2016.05.26

 無印良品の文房具をレギュラー消耗品にすることをやめてしまった。廃番になることが多すぎると感じたからだ。

 何の変哲もない普通のノートみたいに他メーカーのものでも代替がきくようなアイテムならまだいいのだ。いかにも無印良品ならではの、気が利いた視点でしょ、みたいな商品。目次をつけられるノートだの、四コママンガの枠が刷られたノートだの、付箋だの、なんだの。あれは危ない。すぐになくなる。ネタとして買うならいいが惚れすぎては危険だ。そしてときどき、そんなどさくさに紛れてスタンダードなタイプの商品まで廃番になるのが無印良品というやつだ。

 あ、いっこだけあるな、僕のレギュラー無印良品。名刺ファイル、すなわちポリプロピレンカードホルダー。一ページに三枚だけ入るコンパクトなやつ。これだけは既にロングセラーであるという信頼があるので、そのままにしている。いや、この先わからんよ。わからんけれども。

 廃番は突然やってくる。不人気商品だから廃番になるという場合もなくはないが、そうでないのに廃番になることは決してすくなくない。製造業や小売業に携わったことがないのでどんな事情か具体的にはわからないが、部品や素材の調達ができなくなったりだとか、人気はあっても利益につながりにくいとか、実はもともと長くつくり(売り)続けるつもりはなかっただとか、きっといろいろあるのだろう。

 廃番商品を前提に仕事環境を組んでしまっていた場合にはたいへんだ。僕は日々使うノートや手帳が決まっているので、もし廃番になってしまったら……と思うとぞっとする。まずへこむ。しばらくへこむ。そしてしぶしぶ代わりを探すが、きっとしばらく仕事が手につかぬ。

 そんな気分的な問題だけじゃなく、もろに死活問題ということもある。すこし前、アニメーション制作に携わる人たちがほぼ必ず使うという色鉛筆が廃番になるというニュースがあった。業界のデファクトスタンダード商品であろうとも、廃番になるときはなるのだ。その影響の大きさたるや。

 もちろんメーカー側だって、何が何でも製造販売を続けなければならない、なんてことになったら迂闊に新商品が出せなくなってしまうわけで、それはそれでよくないのだ。ほぼ日が手帳を開発・販売することについて「そう簡単にやめていい商品じゃない」みたいなことをイトイさんがどこかで言っていた気がするけれど、たしかに、廃番にしていい商品、してよくない商品というのはある。

 道具を買うことで僕らの生活、僕らの仕事は便利になるけれど、それが消耗品である場合、または消耗品でなくとも故障などの可能性がある場合、それが買い足せない・買い替えられないことへのリスクは常にある。原則として道具は何でもいい、そのときに買えるものでいい、という状態は自由でいいなと思う。ただ同時に僕は、定番の道具というものに大きな魅力を感じている。僕が廃番を恐れるのは、定番に憧れていることの影響が大きい。僕は定番とかスタンダードとか言われるのに弱い。「このアイテムはアメリカ西海岸のサーファーたちの定番」とか言われたら、うっかり買ってしまいそうだ。たとえ西海岸に行ったこともなければサーフィン経験もないとしてもだ。そのぐらい弱い。

 廃番からの自衛方法としては「たぶん一生使うぶんだけストックしちゃう」という荒技がある。レイ・ハラカミが廃番となった音源モジュール「ハチプロ」を買い置きしていたように。要らなくなっちゃったけどな。悲しい。

 思えばソフトのアップデートも廃番みたいなもんだ。OSにせよ、アプリケーションにせよ、慣れ親しんだ旧来のバージョンが使えなくなるというのはつらい。たとえ最新版に便利な機能がわんさかついていたり、全体的に改善していたりしたとしてもだ。環境やシステム、他のツールなどと関わり合いながら役割を果たす道具だから周囲の影響を受けざるを得ない。それはわかる。自分だけは古いバージョンを使い続けていたくても、仕方ないのだ。まあ、ソフト自体がサービス終了というケースもあって、それはほんとにしんどいけれど。

 他との関わりで成立するという意味では、建築だとか自動車だとかで「現在の法律や規制を満たしていないから新たに販売することはもうできないけど、今持っているものを使い続けることはいいよ」みたいなのあるよね。あれ、非常に現実的な落としどころだと理解はできるけれど、不思議だなあと思う。とある日本家屋の昔ながらの屋根の葺き方で、現行の法律的に新築はできない、でもメンテナンスはいいよってんで、そのためだけに技術を継承している職人とかいるらしいよ。すげえよな、それ。どんなモチベーションだよ。

 廃番を恐れていてはいけないのかもしれない。定番を求める心は変わらないけれど、定番にとらわれてしまうには人生は短い。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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