#141 柄

2016.05.19

 車で信号待ちしていたら、前の車が派手な柄のミニだった。天井に模様が描かれ、ドアミラーが車体と違う色で塗られている感じのアレである。その隣の車線、ミニの隣に、ミニが並んだ。同じ柄だった。

 ミニ二台がただ並ぶだけなら、珍しいね、おしゃれだね、ミニはいいね、という感想が口をつくところだ。同じ色ならびっくりするけど、まあそれもいい。が、なんせ同じ柄が二台並んでしまうと途端に残念な感じである。かぶり感がすごいのである。ディーラーの試乗か何かかと思ったが、車内の様子はどうやらそうでもなさそうだった。当のドライバーたちがお互いに気づいていたかどうかはわからない。気づいていなければいいなと思う。

 思い出したのは高校のとき、同じクラスの女子がふたり、同じ柄のシャツを着ていた日のことである。無地で色が同じぐらいなら何ていうことはない。ボーダーやチェックのようなシンプルかつベーシック、スタンダードな柄であればむしろ「お揃いだね」で済んだはずだ。しかしそれは、明らかに特徴的な柄で、同じ店の同じ商品であることが一目瞭然のシャツであった。あれは気まずい。まじで気まずい。その後、彼女らがそのシャツを学校に着てきたことがあっただろうか、どうか。

 柄のかぶりは気まずい。端的にいってださい。でも、どうしてださくなってしまうのだろう。思うに、柄は、それ自体でユニークさを志向しているからではないか。奇抜な色やモチーフであればあるほど、それはユニークであることを目指しているように見えるのだ。仮にそのような意識が(身につける人、あるいはその製品の作り手に)ないのだとしても、だって見えちゃうよ。よね。

 もちろんユニーク、個性的であるか否かというのは大いに相対評価であって、周囲との差異の程度である。ユニークを目指している、それを声を大にして宣言している、そんな者同士がかぶる。つまりユニークではなくなる。そんな恥ずかしいことがあるか。

 柄を選ぶ際には、いかにかぶらないかに心を砕く必要がある。しかしまあ、しょうがないっちゃしょうがない。服であろうと車であろうと、よほどヘンテコな好みでない限りかぶるところではかぶるのだ。個性的といっても変態の域でなければ、多少のかぶりは覚悟して柄を選ばなければならないのだ。

 たとえば、まったく偶然に電車で向かい合った人が同じ柄を着ていたとする。そんなこと、避けようがない。事故である。当人たちは気まずいだろうし周囲の乗客も気づく人は気づくかもしれない。でも、全員がその場限りの関係で、それっきり。だったらまあ、そのぐらいはしかたないと割り切ってもいいだろう。冒頭のミニだってそうだ。

 しかし、自分が属しており、日常的に時間空間を共にする集団。教室や、職場や、その他いろいろ。そこでのかぶりは避けられるものなら避けたいところである。僕がとっている対策は、服であれば「既に周囲の人間が持っているものと同じ柄は買わない」というのが、まずは当然ながらひとつ。そしてもうひとつは「買った服はすぐに着る」である。買った翌日、もしも機会があれば当日でもいい。先制攻撃作戦。攻撃は最大の防御である。

 ほかには「柄と柄を組み合わせる」という手もあるだろう。ユニークとユニークを掛け算すれば、その組み合わせがかぶる確率は格段に下がる。ただし、逆に難易度は飛躍的に上がる。僕には到底リームーな上級テクなのである。僕の好きなテレビ番組「プロジェクト・ランウェイ」でも柄と柄の組み合わせは限られたデザイナーにのみ許されたスキルである。モンド・グエラとか。

 それでもなお、確率は低いとはいえなお、その服が既製品である以上、もっといえばその布地が既製品である以上、かぶる恐れというのは完全に消えたわけではない。誰とも絶対にかぶらない柄がどうしてもほしいのなら、もう最初から世界に一つしか生産されないものを手に入れるしかない。オーダーメイド。もっといえばオートクチュール。これはもうレベル高いとかそういう話というよりは、金銭と情熱の問題である。

 あるいは自分の手でオリジナル柄を創出するという手もある。染めるとか、描くとか。手芸的な世界は昔からあったはずだが、近年のコンピュータを活用した技術的進歩や作れる場の出現によって自分で作りやすくなったとはいえるかもしれない。DIY柄。世界に一つだけの柄。

 子供は柄を着ていることが多い。それが本人の希望か親の希望かはわからないが、人気キャラクターの柄はやはり人気だ。誰かとのかぶりなんて彼らはお構いなしだ。好きなんだ。それだけだ。すっかり柄に及び腰な無地マンの僕としては、その姿勢がなんだかちょっと羨ましいのだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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