#140 本名

2016.05.12

 ネット上で本名を名乗るのか名乗らないか、みたいな話は定期的に盛り上がるテーマだ。書き込みといえばBBSぐらいしかなかった頃から、まーちょいちょいある。

 僕自身はあるときから本名を書いちゃうことに抵抗がなくなった派なのだけれど、以前はいちおう匿名というか、ハンドルネームだけを名乗っていた。今も使っているsuzukishikaというのは、はてなのIDを取ったときに初めて使った文字列だった。当時はハンドルネームを使うのが当たり前というか、ネットに本名を晒す一般人なんて全然いなかった気がする。

 僕の場合ハンドルネームに「鈴木」という本名が既に入っているから、その後本名を晒しちゃうことにも抵抗がなかった。あと、そもそも苗字がありふれているというのもある。だけど一番は「ネットには誰に見られても問題ないことしか書かない」というルールを決めたからだ。SNS、特にフェイスブック以降、なんかもう「リアルの知り合い」と「ネットの知り合い」が混じり合って区分する必要がなくなったというか、めんどくさくなってしまったのだった。「ブログやってる?/SNSやってる?」と訊かれていちいちごにょごにょ濁すのも面倒だし。

 でも、本名に抵抗がないというのはあくまでも自分自身のことであって、家族の本名を晒すことはしたくない。本人が晒しているのなら構わないけれど、本人が公開していないものを僕が書くのはちょっと違うと思っている。まあ、書く必要もないので、というのもあるが、家族に限らず名前はその人のものだよな、という意識が僕は強いみたいだ。昔の偉い人は呪われたりしないように本名を隠したとかいうじゃないですか。さすがにそこまでのことは思っていないけれど、その人がネットに本名を書きたければ書けばいいし、伏せたければ伏せればいいし、好きにすればいいんでないのという感じ。

 ネットとは関係なく本名以外の名前を持つ人というのは決して少なくない。わかりやすいのは俳優や芸人、タレントなどのいわゆる芸名というやつ。本名で活動する人もけっこういるけれど、本名が地味すぎて芸名をつける人もいるし、本名が派手だったり珍しかったりしすぎて芸名をつける人もいるし、そんなの関係なく芸名をつける人もいるし、本当にいろいろだ。昭和の歌手の人たちの「本当はこっちの人にこの名前がつくはずだった」みたいなエピソードも楽しい。

 で、芸名で世に出てるんだから本名なんかどうでもいいじゃないかといえばそうでもなく、本名を知りたがる人たちはけっこう多い。本人が本名をネタにしているパターンもあるけれど、それはそれとして。別に呪おうとしてるんじゃあるまいが、まあ、ファンならわからなくはない心理である。でも、芸能人の本名とか、本来非公開の人のやつもネットに書かれていたりするけど、あれけっこう嘘とか間違いが多いからみんな信じなくていいと思うよ。

 衆目に晒される人々という点ではスポーツ選手も同様だが、彼らは彼らでまた独特だ。プロ野球選手なんかも登録名というやつがあって、全員が本名というわけではない。イチローとかSHINJOとか、わかりやすい名前はおいといたとしても、地味に漢字を変えてたりする。松井稼頭央とかね。そういえば「ジャイアンツの大村って誰?」って思ったらロッテからトレードしてきたサブローだったときはなんか可笑しかった。あと、力士の四股名は立派だが、下の名前は本名をそのまま生かしていたりするのが面白い。あれは昔からなんだろうか、ちょっと不思議な慣習だなあと思う。

 顔を広く知られる人々は名前が本名だろうが本名じゃなかろうが街を歩いて顔を見られれば関係ない。しかし、顔を知られていない人々にとって、名前はすなわち顔である。伊集院光がテレビで顔が広く知られる前、直接対面したラジオのリスナーから「詐欺師!」と罵られたというほっこりエピソードがあるが、まさに名はいろいろと表すのである。

 文筆関係の人も、顔を出さずに済まそうと思えば出さずにいられる。そこで本名ではなくペンネームを使えば匿名であることができる。街を歩いて騒ぎになるということはあまりないだろうし、病院で名前を呼ばれても周囲がざわつくことはないだろう。乙一も錯乱坊主も。

 著名人でなくても、結婚などで姓を変え本名は変わったけど結婚前の姓で仕事をしている人というのは僕のまわりにもけっこういる。本名だったものが本名ではなくなるというのはいったいどんな気分なのだろう。不思議だ。僕自身は結婚しても姓を変えなかったし、今後も改名する予定はないので、ひとつの本名と一生を添い遂げることになりそうだけれど。

 複数の名前を持って生活するのってどんな感じなんだろうなーって思う。本名の自分が本当の自分で、二つ名の自分はもうひとりの自分、みたいな感じになるのだろうか。本当の自分って何なんだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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