#126 買い食い

2016.02.04

 仕事のある平日は帰宅が終電近いことが少なくないので、そんな夜は職場で腹が減って仕方なくなる。昼食から時間が経てば当然ながら腹は減る。本当は昼食をもっと遅くに摂って間隔を調整すればよいのだろうが、どうしても昼食はお昼に食べたいたちなのだ。仕方ない。

 仕方ないので間食をする。たいてい近くのコンビニへ出かけて何かしら買う。職場の近くにはコンビニが複数あり、その日の気分でぷらぷらと選ぶ。とはいえ商品の候補はだいたい決まっていて、空腹の程度にもよるのだが、最近は鶏肉の揚げたやつかポテトサラダを豆乳と一緒に買うことが多い。甘いものが食べたいときにはシュークリーム。いちおう過度なカロリー摂取にはならないよう気をつけているつもりである。仕事帰りだろうか、ビールを買うスーツ姿の人を見てしまったときはそっと歯を食いしばって職場へ戻る。

 このまえ、いつもの候補たちがどれもピンとこないときがあった。コンビニまで足を運んではみたものの、しょっぱいのも甘いのもなーんかしっくりこない。おにぎりや弁当では食べ過ぎだ。かといって何も買わないというわけにもいかぬ、このままでは空腹で仕事に支障をきたしてしまう(決して自分への言い訳ではない)。

 ふと、アイス売場が目についた。軽い気持ちで中をのぞいた。「雪見だいふく」を見つけた僕は、なんだか急にわくわくしてしまって思わず手に取りレジへ直行。職場の自席で食べたところこれがめっぽう美味くて美味くて僕は感動してしまったのである。なんでなんだっていうぐらい美味かった。

 たしかに雪見だいふくは好きだが、極端に好きというわけでもない。食べたのは久しぶりだったが、何年も食べていないというわけでもない。ただ、ひとついえるのは、職場で雪見だいふくを食べたのは初めてだった。職場で食べるっていうのが新鮮だったのだ。そして、それは僕の中でものすごく「買い食い」っぽかったのだと気づいた。買い食い、ってなんだかわくわくしないだろうか。欲望を満たしながらもほんのちょっと後ろめたいような。

 僕は買い食いをしない子どもだった。お金がもったいないと思っていたからだ。月に数百円のお小遣いはすべてミニ四駆をはじめとする玩具関係につぎこんでいた。自腹という言葉は当時知らなかったけど、食費としてのお小遣いは与えられていなかったから自分で何かを買って食べ飲みするという考えはまったくなかったのだ。びんぼくさいといえばびんぼくさい子どもである。

 そんな僕が唯一、遠慮なく買い食いをしたのはお祭りの屋台である。お祭りのときにはお祭りのためのお小遣いが特別に別途支給されたのだ。夏のボーナスである。たこ焼きやら焼きそばやらフレンチドッグやら、その日の昼食も兼ねていたはずなのでそれなりに食べていた、と思う。ただ、ここでも僕はどちらかといえば買い食いのような「消えもの」よりも、くじ引きのような「残るもの」に支出したがる傾向にあった。「体験に金を使う」という高尚な意識は当時の僕にはなかったということだろう。お小遣いを使いきったふりをして貯めておいてミニ四駆に回すということもあったのではないか。ありましたとも。

 その後、下校時の買い食いをうるさく咎められるような閉塞感あふれる中学時代も、一転みんなが購買や最寄りのコンビニで楽しく買い食いをしていた開放感ばりばりの高校時代も、その感覚は変わらなかった。まあ、子どもなりに歳を重ねるにつれて社交としての飲食機会は徐々に増えたし、それを拒むようなことはなかったけれど、根底にある意識として。

 実家住まいとはいえ外食や飲み会も増えバイトもするようになった大学時代という過渡期を経て、社会人になるタイミングで実家を出て、いつの間にか食べるものは自腹で買うのが当たり前になった。すなわち日々の生活イコール買い食いになった。それについて特に感慨もないままこれまで暮らしてきたわけである。ところが「雪見だいふく」が不意に買い食い感を思い出させてくれたことで僕は、頑なに買い食いを避け続けた幼少期を過ごした僕は、今、自由に買い食いしまくることができる喜びを噛みしめるに至ったのだ。

 自分で農耕するのでも狩猟採取するのでもなければ「自分で食う」イコール「買って食う」である。自分で食っていくというのはこういうことなんだなとあらためて思った。同時に、食わしてもらって大人になったんだということを強く意識した。家に帰れば必ず食えるというのはとても当たり前のようで実は幸福なことだ。食わしてくれた親への感謝とともに、あらためてこれからも自分で食っていきたいと思った次第である。

 とはいえ「ひとの金で食うメシは美味い」っていうそれはそれで事実なのが誠に困ってしまうところである。ごちそうさまです! ごちそうさまです! いやいや、ここはほんとにごちそうさまです!


face

鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com