#124 靴下

2016.01.21

 バスケットボール用の靴下を一足だけ持っている。バスケットシューズの下に履く、厚手の靴下である。

 中学一年で入ったバスケ部。僕は登校時と同じ靴下のままで練習に参加していた。白くてワンポイントの入った普通の靴下である。練習は週に三回あったので、練習にバスケ用靴下を使用するためには洗い替えを含めて何足も持っていなければいけない。僕はバスケ用靴下を何足も持ってはいなかった。べつに家は貧乏ではなかったが、何足も買ってくれと親にお願いする気にはどうしてもなれなかったのだ。というわけで、持っているのは一足だけ。一年生の終盤に試合(新人戦)に出ることになったときにどうしても必要だなと思って買ってもらった一足だけ。バスケ部は一年で辞めたので結果オーライといえばオーライだったんだけど。「CONS」って入ったやつ。

 練習でもバスケ用靴下に履き替える上級生を見て「いいなあ」と思わなかったわけではない。ただ、どうしても気軽に「買ってくれ」とは言えなかった。なぜか。たしかに親に物をねだるのが苦手な子どもではあったけど、バスケ用靴下は特にダメだった。その理由はたぶん「靴下イコール消耗品」という僕の意識のせいだ。

 そもそも衣料品などほとんどすべてが消耗品である。冷静に考えればそうなのである。僕らはついつい「これは長く着られる」だの「一生モノだね」だのと言いながら衣料品を購入、所持したりするけれど、ほんとはそんなもの滅多にないのだ。ただ、さすがに「一生モノの靴下」というのは聞いたことがない。

 靴下というのは捨てる機会が頻繁にあるものである。薄くなったり、穴が開いたり、摩擦の多い部位だから仕方ない。繕うケースもなくはないが、僕の場合は「小さい穴を気にせず履いちゃう→どんどん穴が大きくなる→取り返しがつかなくなる→捨てる」ということがほとんどだ。穴が空いた靴下は、そのままゴミ箱に捨てたり、そのまま雑巾代わりに使ったり。逆にいえば、穴の開いていない靴下を僕は捨てることがない。なので「CONS」のバスケ用靴下はもう二十年も履かれずに衣装ケースの奥に眠ったままだ。

 そんな、消耗品であるということが明白な存在である靴下に、お金をかけるということがどうしてもできない。僕も年齢が年齢なんで、おしゃれは足下からといわれることぐらい知っている。靴のことはいうまでもなく、靴下だって重要なピースだということも。まして近年、パンツの丈が半端だったり裾をロールアップしたりして靴下を見せちゃおう的な傾向があるじゃないですか。ファッショニスタなメンズは靴下にも気を遣うのだろうが、僕のようなノットニスタは困ってしまうんだよなあ、もう。

 子どもは最初、親が買ってきた服を着る。やがて成長していく中でいつしか自分で服を買うようになる。ご多分に漏れず僕もその過程を辿ったわけだが、靴下は最後の最後まで親が買うものだったような気がする。それだけテキトーにとらえてきたのだ。

 きっと男子と女子でも違うのだろう。僕が中高生の頃はちょうどルーズソックスやら紺のハイソックスやらという時期だった。女子にとって靴下は、たとえ学生服であっても重要なアイテムだったはずだ(少なくとも男子のそれよりは)。また、女性はがんらい選択肢として靴下のほかにタイツもあるし、裸足ということも多かろう。靴下のチョイスがファッションを成すひとつのピースであるという意識は持ちやすいのではないか。男は靴下のほかに選択肢がない。だから、なんかテキトーになるのだ。

 靴下、めんどくさい。できることならなくなってしまえばいい。でも裸足で靴を履くのは気持ち悪い。そんなニーズに応えるのがきっとフットカバーと呼ばれるくるぶし丈よりさらに短いアイツなわけだけれど、僕はあれを脇汗パッドのような存在だと感じている。表舞台に出てはいけないもののような気がするのである。故に、抵抗があって購入に至っていない。

 そもそも靴下は下着に近い。厳密に「下着である」ということはできない感じがするけれど、非常に下着的なファッションアイテムだといえるのではないか。丸見えだけれど下着。または、下着だけれど丸見え。そう考えると僕の靴下への無頓着も説明がつくのではないか。そして同時に、靴下が性的なアイテムとして扱われることにも説明がつくのではないだろうか。

 日本マンガ史に残る名作『幕張』の、たしか連載第二話だったと思う。野球拳で、ここぞの好機で、男が女に勝利した、値千金の一勝分、値千金の一ターンを「既に脱いでいた靴下を履かせる」ことに費やす、というシーンがある。はっきり申し上げて、涙なしには読めない日本マンガ史に残る名シーンである。未読の方はぜひいちど読んでみてほしい。あ、僕の趣味がどうっていう話じゃないですよ。名シーンだというだけです。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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