#123 冷凍

2016.01.14

 年末年始など人が大勢集まる冬の宅飲みとくれば、缶ビールの置き場は冷蔵庫ではなく、家の外だ。缶ビールが多すぎて冷蔵庫に入りきらないからだ。ただし飲む前に気をつけなければいけない。その缶ビール、中身が凍っている可能性がある。

 北海道の冬では、食材を凍らせないために冷蔵庫があるのだ、といわれる。外気は氷点下になるから実際その通りである。このまえ仕事で本州の大葉(しそ)農家さんを取材したところ、大葉はふつう通常便で配送するが冬の北海道だけはクール便を使うと仰っていた。大葉は氷点下がNGらしく、北海道の冬に通常便だとアウトなんだそうだ。凍らせないためのクール便。なんだそれは。

 とはいえ、とはいえである。こちとら札幌のアパート暮らしの身であるが、冬に暖房を入れていなくても室内が氷点下になるという事態はさすがに未経験だ。これが北海道でももっと寒い地域であれば違うかもしれないし「寝ていて鼻毛が凍った」なんて話も聞かないことはないけれどたいてい昔話だ。昔と違って住宅の気密性もずいぶん上がっているはずなのだ。ですよね? 今も寒いぞ鼻毛凍るぞという人がいたらごめんなさい。旭川の人とかごめんなさい。

 まあ、いくら寒いといっても気温には波があり、最近の気候じゃ真冬でもうっかり0℃を上回る日もあったりするので、要冷凍の食品を外にずっと置いておくというわけにはいかない。安定して冷凍しておける冷凍庫は、北海道の冬にも必要な設備である。

 僕にとって冷凍庫は長らく「アイスクリームと氷のためのもの」であった。夏になれば子どもがアイスクリームを求めて群がり、夜になれば父が晩酌用の氷を求めて群がる、それが我が家の冷凍庫。僕の認識はそれ以上でもそれ以下でもなかった。独り暮らしを始めてからはそれが「ご飯を冷凍する場所」に変わった。いかんせん料理スキルが低いので、ご飯を研いで炊いて冷凍するぐらいしか活用の幅は広がらなかったのだ。

 そして今、冷凍庫は妻の領域である。冷蔵庫は僕も開けることがあるが、冷凍庫を開けることは、ほぼない。その中は僕からするとまるでパズルのように食品でぎっしり、ぴったりと埋められており、僕が下手に触ると二度としまえなくなってしまいそうなのだ(実際、妻もときどき「あれ、閉まらない」ってやってるし)。スーパーで値下がりしていた美味そうな肉なんぞを買ってきてすぐさま小分けにして冷凍していて、うちの妻はマジえらい。冷蔵庫と違って冷凍庫はぎっしりと詰めるほうが節電になるらしいから、さらにえらい。

 料理に親しくない僕からすれば「この食材は冷凍できる・できない」という判断がつくのがすごいと思う。ご飯や肉が冷凍できることぐらいは僕でも知っているが、「実はコレも冷凍できるんですよ〜」なんて暮らしの小技みたく紹介されているのをネットなんかで目にするにつけ「へ〜! そうなんだ〜」と感心してしまうのだ。

 冷凍に適する・適さないというのはなにか理論があるのだろうか。水分含有量がどうとかこうとか、とかとか。それともすべて「凍らせてみた人」がいるということなのだろうか。先人の数え切れない失敗、数え切れないほどの不味くなっちゃった食材の上に僕らは立っているのかもしれない。べちゃべちゃの足場に。

 ところで、学校給食で一度だけ「もなか納豆」というメニューが出たことがある。もなかの皮の中に味のついていない納豆が入っているだけというなんとも珍奇な品で、味はなんというか「お察しください」なやつだったんだけれども、そのうえ納豆が凍っていたという記憶が鮮烈に残っている。確かに納豆は冷凍できるのかもしれない。でも、凍ったままで食べるものではない。僕はそのとき解凍の大切さを噛みしめた。硬くて、冷たかった。

 そういえば幼い頃、人間の冷凍保存についてテレビで見たことがある。いわゆるコールドスリープというやつ。治療法の見つからない病に冒された人が未来に希望を託したり、あるいはものすごく遠い宇宙旅行に出る際なんかに検討されるという、要は人間の時間、人間の老いを止めてしまうということだ。SFチックな世界ではあるけれど、実際のところあの方向性の探究は進んでいるのだろうか。

 あくまで素人考えからすると、冷凍することそれ自体はなんだか上手くいっちゃう気がするんだけれど、問題は、解凍が無事にできるかどうかであろう。こわいよね、やっぱ、それは。「人間は冷凍できません」かもしれないのに。そのテレビ番組ではアメリカかどこかでリアルに冷凍保存に入っている人がいると紹介されていた気がするのだけれど、あの人たちは今でも凍ったままで眠りについているのかなあ。夢は見るのかなあ。

 我が家はまもなく引っ越しを控えている。目下の課題は、冷凍庫の中身をその前に消費しきれるかどうか。冬だから外に出しときゃ大丈夫か? いやいやそれは。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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