#122 低空飛行

2016.01.07

 モーターパラグライダーから空撮された低空飛行の映像をテレビで見たことがある。あれすごい。人間が自力では行けない場所と速度。花畑や丘陵や峡谷なんかの風景がぐんぐんぐんぐん目の前に迫り、そして後ろに遠ざかっていくあの感じ。同じ空撮であっても、空高くを飛ぶ映像ではああはいかない。地上のあれこれという比較対象のすぐ近くを飛ぶからこそ得られる臨場感のおかげである。

 そんな映像など見たこともない子どもの頃から、低空飛行が好きだ。低空飛行ってかっこいい。かっこいいなあ、と、ずっと密かに思いながら大人になった。

 町内の酒屋や駄菓子屋で売っていた「ソフトグライダー」という軽くてペラペラな戦闘機の模型。紙飛行機のように手で投げて飛ばすやつだ。あれにハマっていた時期があって、ハマっていたといっても飛行の理論はわかってないし手先は不器用だしで特に効果的なカスタムもできず、ただただしつこく遊んでいたというだけなのだが、当時、ほんの一回か二回、とても気持ちよく飛んだことがあって、そのときの喜びの感触がいまだに僕の中に残っているのだ。それは、ふわりと空高く浮いた後、びゅんと滑空し、そのまま地面に激突するかと思われたあたりで持ち直し、そのままゆるゆると、低く、長く、遠くまで飛んだのだった。

 よくテレビで見ていた「鳥人間コンテスト」でも僕は低空飛行が好きだった。もうだめか、着水かと思った鳥人間たちが水面ぎりぎりのところでふわりと浮き上がり、ぐーんと飛行距離を伸ばしていくその様を、わくわくしながら見た。

 最近の生活に近いところであれば、ゴミの日にゴミ捨て場を狙いに来るカラスも低い。低いし、速い。ゴミを捨てようとする僕の目の前を「ギャギャギャ!」って効果音をつけたくなる猛烈なスピードで飛ぶのだ。怖い。でも、やっぱりかっちょいい。

 どうして僕は低空飛行が好きなんだろうと考えてみる。ひとつ考えられるのは、僕の目線の高さに近いということだ。空高くを飛ぶものは、地上にいる僕からは遠く、小さく、そして遅く見える。いっぽう低空飛行であれば、近く、大きく、そして速く見える。人間はグラウンドレベルにいるという前提(実際の物理的な立ち位置、あるいは精神的な先入観)が、低空飛行を魅力的なものたらしめている。

 とすれば、本質は高さ・低さではなく、僕との近さということになる。スピードと迫力。でも、ほんとうにそれだけだろうか。

 僕が好きだったソフトグライダーの低空飛行は、低いとはいえ投げ手の僕からどんどん遠ざかっていくものだった。ぜんぜん近くない。速くもない。でも、やっぱりそれはとても甘美な時間だった。遠く小さくなったソフトグライダーが小学校のグラウンドに不時着するまでの、永遠に続けばいいとさえ思えるような。

 ちょっと想像してみる。たとえば僕が熱気球に乗って原っぱの空高くまでぐーんと上る。で、真上から、真俯瞰で、原っぱを見下ろす。そこを、すーっと低空飛行していく紙飛行機があったら。というイメージを試みる。その低空飛行は、僕からは遠い。僕からは小さく、そして遅く見える。でも、うん、やっぱり、いいものはいい。

 たぶんだけど「すーっと伸びる」感じが僕にとってすこぶる爽快なのだと思う。地面すれすれで、いつ着陸してもおかしくないような、でも、スリルとはすこし違う。なんだかやさしいポジティブさ。

 どうやら僕は、これまで自分で思っていた以上に低空飛行のことが好きだということが今わかった。紙飛行機や鳥のそれだけでなく、もっと象徴的な意味で。

 低空飛行という言葉は、あまりポジティブに使われることはない。かつては勢いのあったものが最近なんだか停滞しているね的な、どちらかといえばあまりよくない比喩として登場する。でも、低空飛行おおいに結構じゃないかと僕は思うのだ。だって、飛んでるんだぜ。ってわけですよ。飛んでるだけですげえじゃないか。風を受けて、風を切って、前へ進んでいるんだから。

 そのアティテュードは「細く長く」とよくいわれるものに似ているかもしれない。危なっかしさや脆さも含めて。でも「細く長く」より「低空飛行」のほうがなんかいい。かっこいい。いつ地面に激突するかわからない怖さはあるけれど、そんなの高くを飛んでいたって落ちるときは落ちるもの。ようし、僕は低空飛行でいく。人間の目線の高さで遠く、遠くまで飛ぶ。すーっといく。

 そういえば子どもの頃、ホバークラフトも好きだったのを思い出した。本物を実際に見たことはないけれど、たぶん学研かなにかで知ったんだ。ちょっと浮いたままですべるように進むホバークラフト、あれも低空飛行といえるよね。そうか、それで好きだったんだな。ホバークラフトのラジコン、欲しかったなー。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com