社会科の教科書や資料集で、あるいは昭和を懐古するようなテレビ番組などで、だいたいの人が見たことがあるだろう。トイレットペーパーを奪い合いながら買い漁る、いい大人たちの姿。オイルショックである。「トイレットペーパーが入手困難になる」というのはデマだったとかそのへんのことはさておき、僕がその写真・映像から知ることができるのは「ああ、トイレットペーパーっていうのはこの時代もう生活必需品だったんだなあ(少なくとも都市生活者にとっては)」ということだ。

 なにを馬鹿にしやがってと諸先輩に叱られるかもしれないが、トイレットペーパーって実際いつ頃からあるもので、いつ頃から一般家庭に普及したものなのだろう。なんだか「古新聞を手で揉んでやわらかくしてから拭く」みたいな話も、そんな大昔の話じゃないニュアンスで聞いたことがあるし。現在のロール状のあれの一般化ってわりと最近のことなんじゃ? と思うのだが。そもそもトイレ習慣というのは国や地域によって大きく異なるわけだが、ロール状のトイレットペーパーはどの国で生まれたんだろうな。巻物っぽいから案外日本生まれなんじゃないのと勝手に思っているのだけれど、どうなんだろう。巻物で尻を拭く忍者。とまあ、調べればすぐにわかりそうな疑問をただ書いてみたけど、真相は各自でよろしく。

 オイルショックを知らない子どもである僕は生まれたときから家にトイレットペーパーがあった人間である。生まれてから今まで、トイレットペーパーの基本的な構造は変化していない。もちろん紙の質だとか加工だとかは向上しているのだろうし、芯がないタイプの登場もあるにはあったけれど、一般的に「芯があってロール状の紙」というそのかたちは同じだ。

 変わったのはトイレットペーパーではなく、トイレットペーパーホルダーのほうである。

 子どもの頃に住んでいた借家のトイレットペーパーホルダーは芯に挿す棒が完全に外れるタイプのやつで、幼児には扱いが難しいものだった。トイレットペーパーがなくなるとホルダーから棒を外し、芯を外し、新しいペーパーに棒を挿入してホルダーにセット。という過程の中で棒を落とすリスクがかなり高い代物だ。しかも洋式の水栓トイレならまだいいものの、その借家は和式のくみ取り式だったので棒の落下は即、棒の死を意味する。ああいう製品の「棒だけ」って売っているものなんだろうか。実際に落としたことがあったかどうかは忘れてしまった。

 その後に引っ越した家、すなわち今の実家であるが、そこで僕は劇的なテクノロジーの進化に打ち震えるわけである。「カチャン」のやつである。下から新しいペーパーを押し込めば、両側の突起がバネで引っ込むあれである。鈴木少年はぶったまげた。便利すぎてばちが当たるんじゃないかと思った。最高ですよねあれ。この仕組みを考案した人やそのご家族はきちんと金銭的に報われているのかどうか心配になるぐらい便利。

 ホルダーでもうひとつ気になるのが蓋の部分のことである。「蓋のエッジはペーパーを切るためにある」のか、それとも「ただのホコリよけ」なのか。そこんところが非常に曖昧なまま世の中のホルダーは作られていないだろうか。

 僕は家では「ペーパーは手で切る派」である。ペーパー自体に入ってるミシン目を活かしたい派である。なので、自ずと蓋に関しては「ただのホコリよけ派」なわけで、蓋にはフリーでいてほしい。やわらかな物腰で、肩の力を抜いて、カラカラと回転するロールの上に寄り添ってくれてさえいればいいのだ。ところがそのつもりで公衆トイレなんかに入ると「エッジでペーパー切れまっせ」タイプのホルダーに遭遇する。前の人が触った紙を触らずに済むという意味では理に適っているんだろうけど、これは蓋がガッチガチに固い。ロールを力強く押さえつけてくるこのタイプの蓋は、僕の引き出すペーパーを僕の意図しないところで切ってくる。むかつくんである。キーって思いながら蓋を跳ね上げる(下半身丸出しで)。

 もしかするとこれは、ペーパーの引き出し方とも関係しているかもしれない。僕が幼い頃に親から習った引き出し方は「Z型に折りながら重ねていく」というもので、しばらくその通りにしていたはずだが、あるとき「ぐるぐると巻きながら引き出す」ほうが楽で速いと気づいて以来、僕はそちらの流派なのだ。勢いよく引き出しすぎているのかな。

 トイレットペーパーはこれからどうなっていくのだろう。いくらウォシュレットで洗っても、乾燥機能があろうとも、仮に完璧な洗浄技術が完成したとしても、拭かずにズボンを上げて立ち上がる自分が想像できない。その勇気はない。やっぱり目視できないからだろうな。

 ちなみにトイレットペーパーの三角折りは「掃除終わりました」のしるしだから、利用者が用を足した後に折るのは誤りだと僕は思う派。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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