嫌いな食べものは何ですか? だったら答えやすいのになあと思う。

 動物として、食べるという行為は生存のベースである。だから基本的に食べることは快であるとプログラムされているはずだ。であれば食べものの大部分は「好きな食べもの」になってしまうのではないだろうか。「嫌いな食べもの」のほうが多いという人はよほどの偏食である。ゆえに「嫌いな食べもの」は答えやすい。

 好きな食べものは何ですか? と質問する人はどんな答えを期待しているのだろう。食べものを極めて大雑把に分ければ「嫌いな食べもの」「好きでも嫌いでもない食べもの」「好きな食べもの」の三つになると思うが、この意味での「好きな食べもの」はレンジが広すぎる。好きな食べものが多すぎる。

 問われた以上は僕自身、納得のいく回答をしたい。数ある中でもとりわけマックスぞっこんラブな食べものをバシッと答えたい。しかし、それは決して簡単なことではない。昔たまたま見ていたテレビドラマに出てきた「好きに順位は付けられない」っていうセリフが僕はとても印象に残っているんだけど、ほんとそうだなと思うのだ。どれも好きなんである。そのうちのどれかだけなんて決められないんである。

 ケースバイケースだとは思うのだ。初対面の男女が確認し合う「好きな食べもの」と、親戚の子どもに尋ねる「好きな食べもの」は違う。そのぐらいの使い分けはわかっているし、それなりにTPOに応じた回答をしているつもりだ。でもやっぱり、どうにも釈然としない気持ちがこびりついたまま拭いきれない。

 食べる店を決めよう、というようなシチュエーションであればまだなんとか答えようはある。そのときに置かれている状況、人数や場所や時間帯によって落としどころがある程度絞り込まれているからである。たとえば友人同士で昼飯を食おうという際に「飯食おうぜ飯ー。なんでもいいなー。鈴木、なんか好きな食べものあるー?」って聞かれて「麻婆春雨かな」って答えたら僕はあほだ。いや、僕は麻婆春雨が好きだ。大好きだ。でも、いま言うことじゃない。「カレー」とか言っておけばいいんだ。

 よりわかりやすいのは、居酒屋などでメニューを選ぶとき。絞り込まれたノミネート作品から一番を選べばよいのだから話は単純だ。それを選択式の問いにすればさらに難易度は下がる。「牡蠣フライと海老フライならどっちが好き?」「カルビとサガリどっちが好き?」など。答えやすい。

 このように「好きな食べもの」はレンジが大きな質問だからこそ、いかに絞り込めるかが上手く答えられる鍵になる気がする。

 難しいのは雑談シチュエーションにおける「好きな食べもの」だ。まったくのフリースタイル。つまりは、絞り込みのとっかかりがないという状況だ。

 まず、無難なところで「大きく答えちゃう」というのはあると思う。ジャンルや素材で言っちゃう。「揚げ物」とか「肉」とか「米」とか。ただ、そこで話が終わっちゃっては「だいたいみんな好きだよね、肉って」ってだけなわけで、あくまでもそれは話を具体的に掘り下げていく一歩目、とっかかりであることは忘れてはならない。「どんな揚げ物が/どんな肉が」という追加質問、キャッチボールがあってはじめてコミュニケーションが成り立つ。掘り下げて掘り下げて、具体的であればあるほど話は盛り上がる。

 となると、こういった場合における「好きな食べもの」というのは、ただ味覚として好きということでは足りないように思うのだ。舌や歯が好きというだけじゃなくて、頭が好きというか、あるいはそれを文化と呼んでもいいのかもしれないが。たとえば「この季節だったら→あったかいもので……」という絞り込みかたをしたり「最近特に好きなのは→このまえ出張先で食べた……」という個人的なエピソードくっつけたり。

 そういう意味では、趣味化してしまうとわかりやすいんだと思う。ラーメン屋やカレー屋をめぐるのが好きな人だったり、料理が好きな人であれば○○をつくって食べるのにはまっている、みたいな。ああ、そうだな。「好きな」を「はまっている」に変換すればわかりやすいのかもしれない。

 とかなんとか、こんなこと深く考えずに答えればいいのかもしれないけど、好きな食べものだからこそ、なんかおざなりにしたくねえなあっていうかさあ。まじめか。それともみんな、断トツで好きな何かがあったりするもんなのかなあ。単に僕が好き嫌いがないだけ、あるいは食い意地が張っているだけなんだろうか。

 以上をふまえて僕が好きな食べものは、いくら丼、鮭親子丼、寿司、ステーキ、焼肉、焼きとり、豚カツ、ザンギ、牡蠣フライ、豚肉生姜焼き、ハンバーグ、餃子、たまごかけごはん、エッグベネディクト、ピザトースト、アヒージョ、鮭とば、パスタ、ピザ、ポテトサラダ、炒飯、おにぎり、ふの味噌汁、カレー、麻婆春雨……


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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