肩が弱い。つまりはボールをビュッ! と遠くまで投げられない。それで困ったことなど大人になってから一度もないが、無邪気に「プロ野球選手になりたい」とか思ってるピュアな野球少年には死活問題である。昔の僕である。

 僕は肩が弱い野球少年だった。にもかかわらず、ショートを守っていたことがあった。希望をきかれたのでショートを守りたいと言ったのである。だってショートってなんかかっこいいなと思ったから。遊撃手ですよ遊撃手。守備なのに「撃」とかついててかっこいい。

 さて、ショートは内野の守備の要である。ショートゴロを捕ってファーストに投げる。だが、肩の弱い僕はファーストにビュッとボールが投げられない。届かない。無理に届かせようとすると、山なりなボールになってしまうのだ。

 そこでワンバウンドである。

 もちろん、実際はノーバウンドでズバッと送球するのがいちばん速い。だが、山なりに投げるぐらいならワンバウンドのほうが速い(んじゃないか)という考えかたは僕にとって大きな心の支えになった。実際には速いのか遅いのか僕は知らない。ただ、僕は、ワンバウンド送球が好きだった。

 中学でバスケ部に入った僕は、バスケでもバウンズパスが好きだった。胸から両手で押し出すように投げるチェストパスが基本なのはわかっている。でも、床にワンバウンドさせたくてしょうがなかった。そもそもバスケはドリブルもバウンドの連続であるが、この行為も好きだった。

 野球少年だった僕は、自分が肩が弱いからワンバウンドで投げるのが好きなんだと思っていた。それはあくまで消極的な理由でしかないと思っていた。ところが、バスケットボールを楽しむようになって僕は気づいた。どうやら僕、ワンバウンドというものがそもそもかなり好きみたいなのである。

 ワンバウンドはかっこいい。そして、ワンバウンドは気持ちいい。とりわけ自分が投げたり蹴ったりしたボールをワンバウンドさせるという行為には、えも言われぬ快感があると思いませんか。ワンバウンドというのは、あらためて説明すればボールが一回、なんらかの面に当たって跳ねているのである。ノーバウンドで空中を進むボールの軌道は予測できるが、ワンバウンドすることでボールはその軌道を変える。ボールが、その軌道を一度変えているにもかかわらず意図通りの場所へ届く、その気持ちよさたるやノーバウンドでは得られませんぞあなた。そのうえボールにスピンなんてかけてみなさいな。ああ、もう、そんなワンバウンドってあるー? みたいな。やばいよね。どうすかね。

 つまり、ワンバウンドがはらむ予測不可能性が、人間の達成感を増幅しているのではないかと考える次第である。こう言語化してみるとなんかそれっぽい気がしてきませんか。みんなほんとはワンバウンドが好きなんじゃないですか。僕だけですか。

 もし自分でスポーツをやるなら、やっぱりワンバウンドがたくさんあるスポーツがいい。バスケットボールも野球も好きだけど、たとえばスカッシュってやったことないけどとても面白そうだなと思っている。それと、下手だしぜんぜんやらないけれどビリヤードなんてある意味バウンドを操ってなんぼの競技だろう(あれはクッションって言いますよね)。逆に、バレーボールとかはちょっと無理かもしれない。ノーバウンドであることを宿命づけられた競技だなんて……。

 そんなワンバウンド派の僕にとって、あまりうれしくない風潮が最近ある。野球界における風潮。もっといえば野球ニュースにおける風潮。「ノーバン始球式」のことである。

 ご存じの方も多いと思うが、この「ノーバン始球式」なる語は女性タレント、アイドル、女優などが始球式を行った際のニュースの見出しに用いられることが多い。賢明なる紳士淑女の皆さんはおわかりのように言うまでもなく「ノーパン」と空目させるのが目的である。目的はそれだけである。インターネットでニュースを見るとき、パソコンやスマホではパとバの区別がつきにくいのである。それに乗じて書き手はクリック数を稼ぎたいのである。短いスカートから脚を露わにした若い女たちの写真に「ノーバン」という言葉を添える行為。これは発明だと思う。最初に思いついた人、すげえと思う。

 だけどねえ、と僕は言いたい。君たちねえ、いい加減にしろと言いたい。ノーバン、すなわちノーバウンド。野球なんてやったこともない女性たちが、ちゃんと投げられたのかな? ボールはキャッチャーまでノーバウンドで届いたのかな? そんなことをわざわざ知りたい人間が世の中にどれだけいるというのか。そこにニュースとしての価値はあるのか。それでほんとにいいのか。何回も何回もクリックさせやがってこんちくしょう!

 そりゃ、クリックするよ? 僕は。だってほら、ノーバンかワンバンか純粋に気になるから、僕は。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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