家の近所をランニングしていると、同じくランニング中のおじさんとすれ違った。僕よりもちょっと本気っぽいランニングウェアに身を包んだおじさんは本気っぽいスポーツサングラスをしていた。夜なのに。

 すれ違ってから振り向きたくなるのをぐっとこらえて走りながら考えたのは、たぶんあのおじさんはランニング用の度入り眼鏡をあのサングラスしか持っていないのだ、という可能性である。僕は普段は眼鏡で過ごしているがランニングの際は眼鏡をかけない。でもそれは裸眼でも問題ない程度の視力だからであって、目の悪い人であれば裸眼で外出というのは、特に視界の悪い夜なんかは危ないだろう。おじさんもランニング用に度入りのサングラスをつくったまではよかったが、ナイトラン用の眼鏡までは手が届かなかった。その末の、苦渋の選択としての、夜の度入りサングラスだったのではあるまいか。

 眩しさを軽減するという本来の使い方と、ファッションとしての使い方がサングラスにはある。また、後者の派生ではあるが身体的な事情から目元をはっきりと見せたくないという理由や、著名人が正体を隠すためといったことも。そういう意味では夜にサングラスって決してNGなわけではないとは思う。ただ、このおじさんはランニング中だったのだ。スポーツにおけるサングラスには眩しさ軽減という意味合いしか馴染まない。だからこそ不自然だったというわけだ。あともうひとつ考えられるのはおじさんが鈴木雅之だったという可能性であるが、札幌でディナーショーでもあったんだろうか。

 サングラス、僕は持っていない。スポーツ用や車の運転用も持っていないし、普段からかけるためのサングラスなんて考えられない。いや、欲しいと思ったことは何度もあるし「雑貨屋さんで千円」みたいなのを学生時代に買ったこともあるけど、ほとんどかけずに終わってしまった。やはり、どうにも照れくさいのである。

 白人の方々がサングラスかけがちなのは、瞳の色素が薄くて日光に弱いからだと聞いたことがある。僕は瞳が真っ黒な黄色人種なので、そういった意味では特にサングラスが必要ではない。著名人でもないので、その意味でも必要ない。必要でないにもかかわらずサングラスをかけているということは、つまりシャレこいてるわけである。僕にはそれが耐えられない。耐えるだけの胆力がない。スポーツや車の運転みたいに必要性がハッキリしていればいいんだけど。

 自分以外の人がサングラスをかけているのは別にいいのだ。そんな人たちを「シャレこきやがって」とはまったく思わない。男女を問わず似合っている人はたくさんいるし、単純に、似合ってるなあ、かっこいいなあ、お洒落だなあと思う。うらやましい。夜にかけていたら「見えにくくないのかな」と心配になるけれど。

 それと、やっぱり「サングラスは著名人が正体を隠すためにかけるもの」という偏った認識が僕の中に根深く残っているのだと思う。それが正しくない意味づけであることは頭では理解できているのだが、すっかりしみついてしまっているようだ。「なにを有名人ぶっておるのだ」みたいな、そういう自意識のねじれ。これも他人に対しては別に思わないんだけど。

 昔読んだ雑誌のコラムに、サングラスは外面を変える効果よりも内面に与える効果のほうが大きい、ということが書かれていて、膝を打ったことがある。サングラスをかけることはほとんどないけど、その感じなんかわかる。そういえばサングラスをかけている人ってみんな堂々としているように見えるのは僕だけだろうか。サングラスをかけているのにコソコソと歩き、振る舞っているような人を僕は見たことがない気がするのだが。「相手から目を見られない」ことが精神に作用するとか、そういうことかもしれない。

 サングラスの老舗、レイバンのコピー「NEVER HIDE」は、まさにそのあたりのことを超そぎおとして撃ち抜いたコピーというか、えらいかっこよくて惚れ惚れしてしまう。隠すのではなく、自分をさらけ出すツールとしてのサングラス。うひー、かっこいいー。余談だけど、全世界的に展開するブランドのコピーって、やっぱり英語話者じゃなくても理解できるぐらいの簡単な単語でつくられるものなのかしら。英語が喋れない僕がぐっとくるぐらいの英語で。ナイキとかもそうだよね。

 なんだか、サングラス買ってみてもいいかもって思い始めている自分がいる。それで卑屈な性格が矯正されて堂々と街を歩けるなら、堂々と人と話ができるようになるなら、サングラスをかけるのも悪くないのではないだろうか。ただ、かけるとした度入りってことになるから金銭的にハードル高い。ZAZEN BOYS向井秀徳みたいに眼鏡の上からサングラス重ねがけすればいいのかな。ただ、それで堂々としていられる胆力が僕にあるかは疑問だ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com