#107 歌詞

2015.09.24

 歌詞がおぼえられないとぼやいたのはソロ活動を開始してしばらく経った頃の奥田民生だった。音楽番組HEY!HEY!HEY!でのそのようなトークと、その後の演奏時にボーカルの位置から見える大スクリーンにバッチリ歌詞が投影されている映像をなんとなくおぼえている。最近のユニコーンのライブでは各メンバーがマイクの下にタブレットをセッティングしているのだけれど、あれ、たぶん歌詞が出てるんだよね? 違うのかな。

 歌を歌う人たちは歌詞をおぼえていてすごいなあと僕は思う。プロなんだから当たり前じゃんと言ってしまえばそれまでだが、それでも、特にベテランになってきて何百曲と持ち歌がある人とか、よく暗記できているなと。まあ、仮に持ち歌何百曲といっても当然コンサートで歌う曲はそのすべてではないし、きちんとリハーサルもするだろうからそこで思い出すというのもあるだろうけど、たとえばある曲と曲の歌詞が混じり合っちゃったり、歌の中に登場する女性の名前が別の名前になっちゃったりとかさ。じゅんこがえつこになっちゃったりしないのかしら。

 あと、テレビの歌番組だったらテレビ用に二番を飛ばしたりとか、そういうこともするじゃないですか。あれもよく対応できるなと感心してしまう。まあ、どんなプロでもベテランでも、それでも歌詞を間違っちゃうときはあるわけで、テレビであれば歌詞の字幕が入ることによってそういったミスが目立つわけだけれど。

 それにしても何年か前、紅白歌合戦のトリでサブちゃんが歌詞をど忘れして絶句する瞬間を目撃したときは衝撃だった。実家で一緒にテレビを見ていた父(演歌大好き)もショックを受けていたようだった。思えば父が老け込んだのはあのサブちゃん絶句事件からじゃないだろうか……それぐらい衝撃的な出来事であったし、ライブというものの怖さ、それを生業としている人たちのすごさ、その世界の厳しさを強く感じたものだ。

 僕はプロじゃないのでぜんぜん問題ないんだけど、ここ十年ぐらいの楽曲の歌詞がぜんぜんおぼえられない。だいたいがうろおぼえもいいところで、曲に合わせて試しに口ずさんでみたりすると、わからないわからない、間違う間違う。間違いすぎて照れるからもう最近は声を出さずに口パクしかしないぐらい。いっぽうで、学生時代によく聴いた楽曲というのは、たとえ二十年ぶりに聴いた曲であっても口から正しい歌詞がするすると出てきて、自分でもびっくりする。

 まず、歌詞カードを見るという行為を近頃ほとんどしていない。CDをほとんど買ってないし、買ったものについてもパソコンに取り込んで聴いちゃうから、ひとつの楽曲あるいはひとつのアルバムとじっくり向き合うということがない。ああ、そういえば、カラオケもずいぶん行ってないや。学生時代はわりとよく行ってたけどなー。

 あと、そもそも以前は、歌詞を一生懸命おぼえようとしていた。カラオケで歌いたかったり、普段ちょっとしたときに口ずさみたいがために。あとは単純に好きな曲だからという理由で。何度も歌詞カードを読んだし、ラジオをエアチェックした曲なんかはカセットテープを繰り返し聴きながらA6サイズのミニノートに書き起こしていた。当然、誤記もけっこうあったし、誤記と気づかないまま長年過ぎたものもあったし、今でも気づいていないものもあるかもだけど。

 おぼえようとしないものはおぼえない。至極シンプルな道理である。ただ、もちろん聞き流しているうちにいつの間にかおぼえてしまう……という歌詞もあるし、そういう歌詞こそ作詞者が目論んでいるものなのかなとも思う。「広告コピーにいいんじゃないの、このフレーズ。語呂もいいし」って自分でひらめいたと思って念のためググったらモロに流行したJPOPの歌詞だったことが何度かある。いつの間にか頭にこびりついていたということなのだろう。そりゃ語呂いいに決まってるよ、歌詞だもん。あっぶねー。

 ところで、歌詞には当然のことながら著作権があるけど楽曲のタイトルには著作権がない、という話を聞いたことがある。
へー、と思っていちおうすこし調べてみたら、つまりはタイトルって一般的な単語の短い組み合わせが多いから、そういうものについては著作権の保護は適用されないよってことのよう。まあ、そうだよね。ちなみに仕事柄の話でいうと、広告コピーに著作権はないが、CMソングの作詞になると著作権が発生する(印税がもらえる)と、コピーライター養成講座でとある講師が仰っていた。彼の作詞による資生堂のCMソング、大好きです。

 ちなみに、僕と同じような生活をしているはずの妻は、けっこうきちんと歌詞をおぼえている風なんだよなー。なんでだろう。耳がいいのかな。僕の耳があほなのかな。

 小沢健二『愛し愛されて生きるのさ』のセリフのところカラオケで歌うの恥ずかしいよね。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com