もしも誰かが命名したものだとすれば、なんて大胆なネーミングだろうか。もしも自然発生的に呼ばれるようになったのだとすれば、なんて無邪気で安直な呼び名だろうか。

 僕が通っていた小学校では中学年から高学年にかけて、学級内で定期的に開催されたイベント「お楽しみ会」。児童らがなんらかの出しものを行い、それをみんなで鑑賞する会である。

 学芸会は全校的なオフィシャルイベントだったし、どんな劇や音楽をやるかは教師が決めるし、その練習なども授業時間が充てられていた。また、その披露の際に保護者や親戚が観客として訪れる、日ごろの頑張りのお披露目的な側面も大いにあった。開催も年に一回だ。いっぽう、お楽しみ会はもっとカジュアルで年に数回。あくまで学級毎のイベントであるために開催日程もバラバラ、観客も基本的にはクラスメイトの児童と担任教師だけだった。出しものの内容も班ごとに、あるいは個人単位で自由に考えた。

 模造紙に書き出され、貼り出される演目はバラエティに富んでいた。歌ったり、踊ったり、芝居をしたり、芸をしたり。手品をしてた人はわりといた記憶がある。あと、流行もあって、僕のクラスでは教師が教えてくれた「ペープサート」と呼ばれる簡易的・平面的な紙人形劇にけっこうみんなが飛びついて、なんならどの班もペープサートやるぞみたいな時期もあった。あれは流行というよりは「困ったらペープサートやるぞ」的な流れだった気もするけれど。

 僕が自分で記憶しているのは、友達とふたりで独楽を回したのと、友達と三人で国語の教科書に載っていた狂言『附子』をテキトーにやる、みたいなやつ。他は忘れてしまった(ペープサートもやったと思うんだけれど)。観客のウケはどうだったっけなあ。

 出しものを自分たちで考えるというのは小学生にしてみればなかなか難易度の高い課題だと思うし、自分たちで必要なものを工作したり、練習したり。みんな、よくちゃんとやっていたなと思う。偉いよなほんと。偉いよみんな。全員で抱きしめ合ってWe are the worldでも合唱したい気分だよ。

 大人になっても全員ではないが「出しもの」をするような機会はあって、たとえば結婚式やら忘年会やらの余興だったりするわけだけれど、あれってほんとにたいへんである。気楽に面白いことをやれちゃう天才や、それこそ手品みたいな芸のある人はまだしも、そうでない人または集団にとって出しものとは非常に厄介だ。

 まず演目の選択が重い。そこでこけたらおしまいである。できればWe are the worldでも合唱してお茶を濁したい気分になる。あと、練習時間の確保もたいへんだ。夜中にみんなでカラオケボックス、みたいなの。それに、発表の機会がもっぱら酒席というのもよくない。こっちのこと見てるんだか見てないんだかよくわからないガチャガチャした場を盛り上げるというのはとても難しいのだ。まあ、しらふの客の前に出るのもそれはそれできついんだけどさ。

 こう書いていてますます子どもはすごいなあと思ったけど、それともあれか、大人になってしまったからこそ難しさが増してしまっているのかもしれないな。子どもは大人のようにしがらみも(ゼロだとはいわないが)多くないし、そもそも「人前でなにかを披露する」ということに対するハードルが低い気がする。たとえばみんなで歌を歌う機会は小学生まではけっこうあるし、上手いとか下手とか無関係に大声で朗らかに歌うよね。これが中学生になった途端にみんな全校集会で校歌を歌わなくなるわけで。なんかそういうのダサい、みたいな。よくない風潮だとは思うけど、でもそういう時期ってあるよね、やっぱ。

 もちろん個人差はある。僕自身は性格的に人前でなにかをするのはそんなに苦じゃないし、出しものを考えるのも含めてわりと楽しんでいたほうなんだけど、人によっては大人だろうが子どもだろうが関係なく苦痛でしかなかったりするだろうなというのも容易に想像がつく。そんな彼または彼女にとって「お楽しみ会」って、やっぱりとてもひどい名前だ。楽しめないものを「なあ、楽しいだろう?」という強制的な同調圧力。これはきつい。ほんときつい。「出しもの会」とかだったらまだいいのにな。

 お楽しみ会が大人の余興と異なるのは全員が必ず演者でもあるという点だろうか。だからみんな、他人事のように構えているわけにはいかないし、無責任になじることもしない。どんなにできがひどくても、あたたかい拍手がそこにはある。大人の世界が、全員が演者になるべきとも、出しものに対してぬるくあれとも思わないけれど、もっと演者へのリスペクトに満ちていればいいのにな。そんな世界に僕は一票を投じたい。

 独自の解釈とオリジナルの振り付けで『ムーンライト伝説』を完璧に歌い踊った女子コンビのことは今でも鮮明におぼえている。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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