#104 モニター

2015.09.03

 テレビ番組と番組の間の比較的けだるい数分間に流れてきた、テレビ局の「モニター募集」という告知。子どもの頃、たびたび目にしては困惑したものである

 当時の僕がそのまま素直に解釈すれば「映像や画像を映す機械募集」という意味になる。しかしテレビ局がどうしてモニターを募集するのだろう。そして謝礼の用意もするというのだろう。集めたモニターを、自局しか映らないテレビに改造して世の中に流通させようとでもいうのだろうか。なんという露骨な戦略だろうか。

 そういうことでない、とは僕にもなんとなく読み取れた。けれど当時の僕にとってモニターとは映像や画像を映す機械という意味であり、それ以上でも以下でもなかった。ディスプレイという言葉は僕の周りにはまだ渡来していなかった。

 元々の意味は「絶えず監視する」みたいなことのようだ。そのための画面は当然モニターだし、コンサートなどで演奏中のミュージシャンに然るべき音を聴かせるスピーカーやイヤホンもモニターである。また、物理的な機器に限らずコンピューターのソフトウェアの中にもモニターはある(モニタと書いたほうがそれっぽいだろうか)。モニタリングという言葉もある。

 そして、テレビ局が募集していたモニターはいわゆるアンケートモニターと呼ばれる、放送する番組について感想や意見を述べてくれる人々のことであった。たしかにそれは、テレビ局が放映した内容についての反応を確認するための、テレビ局にとってのモニターなわけである。

 テレビを観て、その内容についてあーだこーだ述べて、謝礼がもらえる。なんて楽しそうで楽ちんなお小遣い稼ぎだろう。やってみたいなあと僕は思った。なんとなくやらないままになってしまったけれど、機会があれば僕だって、好きなアニメやバラエティを観てその感想を述べる。そして謝礼を頂戴する……と告知CMを目にするたびに思っていた。

 大人になり、働くようになり、今ではすっかりそんなモニターなんてやりたくねえという気持ちになってしまった。すれてしまったのである。好きなものや思い入れのあるものに対して感想や意見をフィードバックするならまだしも、そうでないものについて感想や意見をするということが億劫で無駄な行為にしか思えなくなってきた。

 モニターではないけど観客としてチケットを買って演劇を観た後のアンケート、昔は必ず一生懸命書いていたけれど、今ではすっかり書かなくなってしまった。本当によかったときだけ、よかったと思った点を一言二言。あれはもう、気持ちとしては応援である。読んで嬉しいというのは、僕も経験があるから、わかるから。

 特に興味のないものに対してなにかを言ったり書いたりするのはしんどい。モニターに任じられたからには「どうでもいい」と答えるわけにもいかないだろうし、かといっておべんちゃらをつかうというのも違うだろう。それは、制作側・メーカー側からしても望んでいることではないだろう。というのは真面目すぎるのだろうか。でも、もしこれが真面目すぎる態度なら、モニターなんて意味があるのだろうか。

 視聴者だったり、企業にとっての顧客(顕在的/潜在的)だったりの感想や意見の扱いというのは難しい。ほんとに。そういった意味では「モニター」という呼称に含まれているちょっと冷静に突き放した感じ、悪くないと思う。ヘンに「あなたの声を聞かせてくださいませ! 反映します! しますから!」なんて前のめりの態度より「あなたたちは僕らの『モニター』です」ぐらいの距離感、モニターとして確認はするけど、それをどのように判断するかは僕らの勝手ですよ、みたいな。

 テレビ局のモニター募集って今でもあるのかな。今ならそんなのいちいち募集せず、謝礼を払ったりもせずに、インターネット上の口コミ収集でいいや、なんてことになったりするのかな。膨大な書き込みの収集と分析。ビッグデータ活用ってやつだろうか。よく知らないけど。

 もしも自分の活動についてモニターを持つことができるなら、僕は外の誰かの反応よりも自分の内側についてのモニターがほしい。肉体は恙なく機能しているか。精神はいい感じに保たれているか。肉体と精神はバランスがとれているか。それを絶えず監視できるようなモニター。最近のスマートフォンに搭載されているヘルスケア機能、スマートウォッチといったウェアラブルの流れって、もしかするとそういう要請への応答なんじゃないか。

 そういったデバイスの利便性はうまく享受しつつ、そのような意識を持っていたいな、というのが最近の気分である。外の声が聞こえすぎてしまうせいで内のことがおろそかになっては本末転倒だよねみたいな、なんかそんな感じ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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