#101 開封

2015.08.13

 スナック菓子の袋がここにあるとして、ギザギザの切り込みからぴーっと開けるのはおこちゃまである。袋の上端の接着部分を両手でめりっと開けられて大人である。長いこと、そのように思ってきた。

 パーティー開け、という存在を知ったのは中学生ぐらいの頃だったろうか。袋の上端ではなく、背面の接着部分を開ける。そのまま卓上へ皿的に広げ多人数が食べやすくするスタイル。一人で、両手でめりっと開けてもよいのだけれど、やはりパーティー開けというからには二人がかりで派手に開けたいところ。上端と下端を各々両手でつかんで、ぐっ、ぐっと巻き込むようにして、袋をぱんぱんにして、そして破裂させて。でかい音、でかい声、最高潮のテンション。こうして子どもたちはパーリーピーポーになっていくのだ。

 うまい棒のふざけた開け方が流行ったこともあった。うまい棒は袋のサイズに対して中身がみちみちなので、両手でめりっと開けるのは難しい。ギザギザの切り込みからぴーっと開けるのが普通であるが、そこをそうはしない。片手に持って、膝に打ちつける。すると、うまい棒が袋をすぽーんと突き破って出てくる。横に加わる力にはあっさり砕けるうまい棒も、縦に加わる力に対しては強い、という物理法則を活用した開封法。ただし、すこしでもずれてしまえば粉々である。ただの「膝蹴りでうまい棒を粉々にした男」になる。ぴーっと開けて、うまい粉を飲む。

 めりっと開けられるのが大人なのではない。本当の大人というものは状況に応じて適切な開封方法を選択できる者のことだ。それが食べきりサイズだと判断すれば、ギザギザの切り込みからぴーっと開けることがベストな選択のときもあるのだ。手先が不器用な者は、僕のような者は、己の不器用さを認識すること。そして決して面倒がらず、すぐにハサミを使うこと。「こちら側のどこからでも切れます」が切れなかったとき、ムキにならずに、メーカーを恨むことなくスマートにハサミを使うこと。敵を知り己を知るのが大人である。ちなみに「マジックカット」って商標かなと思ったらやっぱりそうね。イヒ。

 状況に応じて、というときそれは目の前の現在だけなく未来を含む。開けた後のことを考えているか、開けるときに閉めることも考えているか、ということである。再び封をするときその開け方は合理的か。プレゼントの包み紙を乱暴にびりびりと破くのは気持ちいいかもしれないが、大人としてそれでほんとにいいのか。たとえ封をするものではなくとも、せめてきれいに捨てられるように。つまらない? たしかにそうかもしれない。けれど、自分のケツは自分で拭くのが大人なのだとすれば、それが大人の開封作法ではなかろうか。タレ系の小袋を中身が半端に残るような開け方をしてしまったとき僕は大いに悔いる。いろんな拍子に飛び散るタレを悔いる。シャツの染みを悔いる。はじめからハサミを使っておけばよかったと悔いる。

 いっぽう、開封にはドラマがあるのも事実だ。封じられていたものが開かれる、その瞬間が内包するワクワクドキドキ。たとえそれがプレゼントの包み紙をびりびり破くのとは違う事務的な行為であったとしても、静から動への劇的な展開がそこにはある。パーティー開け然り、うまい棒然り。

 そこんところをよくわかっている顕著な企業がいうまでもなくAppleであり、Mac然りiPhone然り、その優れた製品デザインと同時に、その開封という行為をデザインしてしまっているわけである。洗練されたパッケージと必要最低限の同梱物、そして登場する製品本体。キャー! カッチョイー! シビレルー! と感動した人々が「開封の儀」を次々とインターネットに公開する。よくできている。

 購入した商品を使い始めるその瞬間をドラマチックに演出してくれること。素晴らしいサービスだと僕は思う。自分が素晴らしい商品を買ったのだという気分にさせてくれる商品は素晴らしい商品だ。もちろん気分だけでは困るが、決して安くはない商品を購入した者は、自分の購買を肯定したいのだ。

 でもね。ほんとに僕たちはそれでいいのかってことですよ。Appleの演出は素晴らしい。素晴らしいけど、それもいいけど、お仕着せの演出をだらだら楽しむだけでいいのかと。気づかないうちに僕らはどっぷり甘えきってしまって、気づいたときには甘々の感受性しか残ってません、てなことにならないかと。

 欲しくて欲しくてたまらなかった商品だったら、演出なんかされなくたって開封は楽しい。いかにも見映えとか関係なく必要だから入れましたっていう緩衝材と、こんなの誰が読むんだよっていうメーカーのエクスキューズばかりが並んだ分厚い取扱説明書。野暮と野暮の間から「どっこらしょ」と顔を出すその商品のことを、あなたが心から欲していれば。子どもの頃にサンタさんからもらった玩具はそうだったはずなんだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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