#99 倍率

2015.07.30

 16、20、4、8、16。

 この数列に見おぼえはないだろうか。僕の記憶では左から順に、北野大、井森美幸、はらたいら、竹下景子、ゲスト。つまりこれは、大橋巨泉がドンしたものがさらに倍してドンになったときの倍率だ。往年のテレビ番組「クイズダービー」の最終問題の話である。

 僕もだいぶ幼かったのでハッキリとはおぼえていないのだが、要はこれらの回答者が正答できるか否かについて参加者が持ち点を賭けるのだ。そういうクイズ番組だ。クイズダービー。競馬になぞらえたクイズ番組。回答者は競走馬である。なんと斬新な、いまも古びない企画だろう。そりゃ人気長寿番組になるわ。

 最も低倍率のはらたいらは本命も本命、ど本命であり、驚異の正答率を誇るガッチガチの鉄板であり、「はらたいらに三千点」という定型句は嘉門達夫の替え唄メドレーにも登場するほど人口に膾炙していた。ギャンブルに詳しくない人間からすれば「鉄板」という言葉より先に「はらたいら」という言葉をおぼえたに違いない。そのぐらいはらたいらはカタかった。

 最終問題は倍率が二倍になるというのもよかった。大穴の井森美幸に至っては二十倍である。仮に負けが込んでいたとしても当たれば一発逆転必至である。ただし当たったところを見た記憶はない。野々村真のパーフェクトは見たことあるのに。

 おぼろげな思い出を弄びながらつらつら書いてみたものの、実をいえば僕は競馬をやらない人間なのでクイズダービーがどのぐらい競馬だったのかはあんまりよくわかっていない。競馬というよりギャンブル全般をやらない。あえて避けてきたわけではないのだが、親を含め周りにやる人があまりいなくてなんとなくそうなったのである。

 僕のギャンブル経験といえば、ドラクエに出てくる「かくとうじょう」や「カジノ」ぐらいのものだ。ただ、実際の金を賭けるわけではないにせよ、あれはたしかに燃えた。脳内物質がどくどく出るような感じが、子どもながらにちょっとだけした。もしかしたら僕は、はまりやすいたちなのかもしれない。よかった、やらない人で。

 やらない人間ではあるけれど、どんなのが好きかと考えれば競馬のようなものがいい。つまり、平等な確率で、運だけで、くじ引き的に決まってしまうようなギャンブルよりも、それぞれ倍率が異なるというほうがいい。そこが面白い。そこに人間性が出て、ドラマが生まれ、興奮するのだと僕は思う。

 だから、ドラクエで好きだったのは「かくとうじょう」だ。モンスター同士が闘ってどれが勝つかを予想するのだけれど、モンスターごとに異なる倍率が設定されているのだ。強いモンスターは低倍率、弱いモンスターは高倍率。でも、勝負は時の運もあるよね、という。ゲーム性もあるし、考えることもあるし、でも、いくら考えても最後は「えいや!」みたいなところはあって。とかいって、基本的にはゲームの世界でもコツコツ派だったわけだけれども。小市民勇者すずき。勇気なし。

 そんな子どもだったので、倍率という言葉が本格的に身近になったのは高校受験のときである。はじめに倍率と聞いたときは、倍率といえば競馬のそれ、かくとうじょうのそれだったわけで、なんだそりゃと思った。要は定員に対する志願者数の比率なわけだけれど、これを倍率っていうの、なんか今でもほんのり違和感がある。

 ただ、倍率が大きければ大きいほど「達成」が困難であるという点では競馬も受験も同じだ。十倍の馬は勝つことは少ないし、十倍の志望校に合格する人も少ない。だけど、勝ったときの達成は大きなものとなる。一倍以下の倍率の馬に金を賭ける人はいないけど志望校の倍率が一倍以下になると志願者からすればうれしい、という違いはあるんだけどね。いっぽう学校の側は一倍未満にならないように必死だ。今、どこの学校もたいへんですね。たいへんそうだ。特に大学は。

 子どもが減って全入時代が来るとかいわれてたけどそう簡単はいかなくて、人気校と不人気校の格差は広がっていると聞く。僕の故郷にあった私立短大は何年も前につぶれてしまった。もちろん人気校は人気校で生き残りをかけて一生懸命知恵と行動を振り絞っているのだろうが。

 みんながみんな入りたい学校に入れたら倍率というものはなくなる。入学試験はあってもいいけれど、定員がなくなったら倍率はなくなる。ただ、じゃあ、倍率のない世界がいいかっていうと、それは自由のない世界のような気もする。逆説のようだけれど「この学校に行きたい」という自由が全員にあるからこそ、それを現実にフィットさせるために定員が設定されるわけだから。

 不均衡が生じている事態に対して、フェアに、だれもが納得いくような手段で決着をつけようとする際に、倍率というものが生まれるようである。もっぱらはらたいらに賭けてきたけど、たまには井森美幸に賭けたい。そして踊りたい。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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