#97 ブザー

2015.07.16

 スラムダンクのおかげでバスケに夢中だった頃。テレビでNBAを観たり札幌の体育館に実業団バスケを観に行ったりして、もともと野球少年だった僕にとって新鮮だったのは、やたらめったらビービービービーとうるさいことであった。

 うるさい、けれどドラマの名脇役。ベンチがタイムアウトを取るとき。試合の流れを変える選手交代のとき。そして、タイムアップを知らせるために鳴り響くブザー、その瞬間に、美しい放物線を描いたボールがリングを通り抜ける。いわゆるブザービーターというやつである。たいした上手くも詳しくもないのになぜかブザービーターのことは知っているというあたりに我ながらニワカっぷりが滲み出ている。

 あんなにうるさくビービーなる意味ってあるんだろうかと思っていた。選手に効率よく注意を喚起するのであればホイッスルもあるではないかと。ただ、よく考えればホイッスルは審判が吹くものだから、それと区別するための音なんだろうな、きっと。そういやバレーボールでもブザーは鳴るから、体育館競技の特徴なのかもしれない。逆にいえば野球ってブザーはおろかホイッスルも鳴らないスポーツである。それはそれでスポーツとしては珍しいのかもしれない。まあ、いちいち流れが止まることが前提のスポーツだものな。

 中学一年生の一年間だけバスケ部だったニワカバスケットマン鈴木は、公式戦に出たことがほとんどなかったもんだから自分自身が試合中にブザーを聞いたという記憶がまったくない。でも、ブザーが鳴って自分が選手交代で出場する、とか、なんかいいよな、憧れちゃうな、と思う。ブザーって有無をいわせず注目させる力のある音だから、絶対に注目されることが確約されている音なのである。

 バスケ部時代には浴びなかったブザーの音を、高校の演劇部時代にはよく浴びていた。公演の際、上演開始の直前に鳴るブザー。たいてい二回鳴るんだよね、あれ。「もうすぐ始まりますよ(休憩時間が終わりますよ)」の一回目と、「始まりまーす」の二回目。僕らは「一ベル、二ベル」って呼んでいたけど、ベルじゃなくてブザーである。なんでベルって呼んでたんだろう。

 演劇のブザーはたいていホールなどの大きな会場で行われる際に鳴るものであるが、僕ら演劇部は校内の狭い会場での公演の際も鳴らしていた。部の備品にブザーがあったのだ。スイッチがなくて、コンセントに直接挿すことでけたたましく鳴り響くブザー。そいつを舞台裏で、コンセントに直挿し。直抜き。小さな劇場での演劇公演と考えるとそぐわないものだったけれど、演劇部時代の僕としては「高文連の大会のように」という意識があったから、そこは律儀にやっていた。

 映画館も昔は上映前にビービー鳴ったもの、のようだけれど最近そんな映画館あるのだろうか? 少なくとも僕自身はそれを実体験では知らなくて、あくまで「ちょっとレトロな映画館という表現上の演出」という知識としてしか知らない。きょうび、演劇やその他の舞台をそこそこ大きな会場で日常的に観るような人ならまだしも、そうでない人にとってブザーの音、くそうるさいあの音は、クイズ番組の不正解音か、そうでなくてもなんらかの不快な警告音という印象のほうが大きいのではないか。

 がんらい、快な音ではないと思うのだ。いい悪いは別にして生まれもった性質として、暴力的な音である。きっと、プリミティブな音なのだろうと思う。僕らの根源に訴えかけるような、脳みその太古の昔のエリアに直接突き刺さるような。そのうえ、技術のない時代でも比較的容易に鳴らせたような。

 いまもあるのかどうか知らないのだけれど、僕が初めて買ってもらった子ども用自転車についていたのはベルではなくてブザーだった。ハンドルの親指で押せる位置にボタンがあって、そいつを押すとビービービービーブザーが鳴って、ついでにブザー機に仕込まれた豆電球が光ってかっちょいいのだ。

 光るのがかっちょよくて、やたらめったら鳴らしていたように思う。近所の大人たちはたいそう迷惑だったことだろう。むやみにうるさいのは考えものだが、年端もいかない子どもが自転車に乗っている限りはうるさいぐらいがちょうどいいのかもしれない。安全だし。聞こえなくちゃ意味がないのだし。

 聞こえないほど音の小さいブザー、というものは存在するだろうか。それはブザーとして成立しているだろうか。僕はブザーというものを当初、音色の種類として理解していたけれど、もしかするとブザーには「けたたましいほどの大音量」というものもコミなんじゃないか。そうだな、きっとそうだ。

 か細いブザーなんて、ブザーじゃなくてプスァーだものな。プスァー、の瞬間に美しい放物線を描いたボールがリングを通り抜ける。誰も気づかず試合が終わる。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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