#96 PB

2015.07.09

 慣れというのは一種の思考停止である。進歩を阻害しているといえなくもないが一概に悪いとはいえない。いちいち考えるまでもない暮らしの雑事というのは少なくないからだ。ルーティンを効率よく回していくための思考停止である。

 たとえば、風呂の排水口に貼る髪の毛取りシール。たとえば、トイレの掃除用シート。たいしたこだわりのないものであっても、いや、むしろたいしたこだわりのないものだからこそ、買う商品はなんとなーく決まってきて、決めてしまうことでいちいち迷うストレスから解放される。

 生活者のそんな商品が自社のものであってほしいと日用品メーカーや食品メーカーは願うだろう。でも、僕が選んでしまうものの多くはPBだ。たとえば、あるドラッグストアのPBの風呂の排水口に貼る髪の毛取りシール。たとえば、あるスーパーのPBのトイレの掃除用シート。たとえばPBの納豆。普通のメーカー品よりほんのちょっと安い、たったそれだけの理由で選び、そして惰性で買い続ける。惰性、ああ、それはなんと効率的で省エネな力だろう。

 ピーとかビーとかいっちゃってブザーかなんかかと思うような五月蠅げな名前をしておきながら、静かにスッといつの間にやら僕らの生活にちゃっかりずっぽりとけこんでるプライベート・ブランド。きょうびまったくのPBなしで生活している人なんていうのは実際どれだけいるんだろう。リッチな暮らしをしているからPBとは無縁、というわけではないと思うのだ。だって高級路線のスーパーマーケットにだってPBはあるわけだから。一つぐらいはさ。たぶんさ。ガチのセレブは知らんけどさ。

 うちは朝食に必ずヨーグルトを食べる家なんだけれど、何年もずっと「そのとき安いものを買う」という方針だった。四百とか五百ミリリットル入っているあれである。ところがつい先日、立ち寄ったスーパーでヨーグルトがことごとく安くない。どのメーカーのも同じぐらいで似たり寄ったり、決め手に欠ける状況。かといって安いヨーグルトだけを求めてほかのスーパーへ行くというのもなんだか徒労に感じてしまうという状況。困ってしまったのである。

 そこで鈴木家が目を付けたのは「普通のメーカーの普通の商品と同じ価格だけど『プレミアム』って書いてあるPB商品」だった。普通のメーカーのプレミアムラインよりは安くて、そこそこ美味しくて、満足度高し。結局、そのヨーグルトをよく買うようになった。

 PB商品といったら安くておトクが第一といったイメージが強いけれど品質に関しては玉石混淆だ。実は有名メーカーがOEMしてたりなんかして個々の商品単位で見れば優れものは多い。元々はおトクさ優先で買っていたPBのはずなのに、それより安い商品があってもそっちを買おうと思わない、あるいはいっぺん買ってはみるんだけど「やっぱ違った」と思ってPBに戻るということすらある。

 そのうえ慣れというのは面白いもので、ときに品質は不問となる。たとえば風呂の排水口に貼る髪の毛取りシールの「別に強くない粘着力」。たとえばトイレの掃除用シートの「特に厚くない厚さ」。たとえば納豆の「パッケージ」。もう、愛着としか説明のできない要素。こだわりのなかったはずのものが慣れとして生活に刷り込まれて、気がつけばこだわりに変わっている。

 PBに恨みはない。いっぱいお世話になっているのは事実だ。でも、PBが好きかといえばそうではない。それはやっぱり、僕にとってPBを買う行為が惰性だからだ。楽で効率的な思考停止。選び取ることの放棄。そんな買い物は、結局なんだかつまんないのだ。ある大手スーパーはそのPB戦略が裏目に出て売り場がどんどこつまんなくなって、現在とっても苦境に立たされているなんていう記事を読んだけれど、わかる。だよねーって感じ。

 ファッションだって、セレクトショップが自分たちのブランドの商品ばかり扱うようになっているのは、ビジネスの分類上PBとはいわないのかもしれないけれど考え方としては同じようなものだろう。小売業者がじぶんちのブランドをつくってしまうというあれ。ビームスもユナイテッドアローズもトゥモローランドもジャーナルスタンダードもアーバンリサーチもそのほうが儲かるってことなんだろう。あれなんか本当に、きっと色々な事情があるんだろうし、僕もそういう服は何枚も持っているけれど、客としてはもやもやするというか、排水口シールならまだしもファッションでそれかーっていうか。

 みたいなことを、無印良品についてはなんとも思わない自分の感覚が不思議。無印良品だって元々は西友のPBなのにな。PBがほんとのブランドになったってことなのかな。結局はブランドの好き嫌いっていうだけの話なのかな。うーん。

 ほんとはそういうの気にせず飄々と消費を楽しみたいずら。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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