サカナクションの山口一郎がSNSに「ハーフパンツ」と書き込んでいるのを目にして、どきっとしてしまった。彼の脚にではない。ハーフパンツって方言なのかも? と、どきっとしたのだ。

 僕は彼と同郷で年齢も近い。面識はないが近い環境で子ども時代を過ごしているはずだ。そんな彼が「ハーフパンツ」と書いた。そのとき、ハーフパンツという言葉と随分久しぶりに遭遇した気がした。もしかすると子どもの頃以来かもしれない。九〇年代、小樽、ハーフパンツ。ということはひょっとして……? と怖くなったのである。

 が、その書き込みに対してファンは普通に反応、特にツッコミがないので全国で通じる言葉のようである。だよね? あーよかった。

 書く仕事をしていると、していても、しているからこそ、自分の使っている言葉が方言かそうでないかを知っておくのは非常に重要である。もちろん方言を使ってはいけないということではないのだけれど、書き手として「わかっていないで使っちゃう」のはまずい。ただ、生まれた土地で仕事をしていて、クライアントもまた同じ土地の人となれば誰も気づかないで世に出ちゃうことも起こりかねない。自ずと書き手は敏感に、臆病にならざるをえないのである。サカナクションのハーフパンツに反応するぐらいは。

 そのぐらい、ハーフパンツとごぶさたであった。ハーフパンツ自体というよりは「ハーフパンツ」という名前とごぶさたであった。ハーフパンツという名前が特別な意味と響きを持っていたのは小学生から中学生の頃である。幼い頃はまだみんな「短パン」だった。つまり、膝上、太もも中程あたりまでの丈のもの。それが小学校高学年ぐらいで膝丈の「ハーフパンツ」が出てきた。だぼっとした格好が流行った。短パンよりはハーフパンツが断然かっこよかった。

 中学に入ると指定ジャージはあったが短パンに指定はなかったので、一年生の夏の体育、僕は親に持たされたハーフパンツに着替えたところを体育教師に注意された。曰く「ハーフパンツは禁止だ」と。これには面食らった。知らねえよ。短パン持ってねえよ。買うのかわざわざ、あほかと言いたいのをぐっとこらえた。学校指定でない衣料品に対してああでもないこうでもないと、現場の先生方、大変な部分もあるのでしょうけど大変くだらないところに労力をお割きになるなあと今でも思う。今はすこしはマシになっているといいけれど。

 仕方なくわざわざ短パンを買ってもらったわけだが、ハーフパンツに慣れていた思春期ボーイからすると太ももがべろんと出る短パンはいささか照れたものである。しかしながら、そんなことよりなにより短パンのデメリットは、はみだし刑事情熱系になってしまうことだ。ことである。ですよね。

 特に当時の男子中学生的には、ブリーフというのは断じて着用してはならないダサダサ下着だったし、ボクサーブリーフというものはまだ存在しなかった。つまりトランクス(僕らは「ガラパン」「ガラ」って呼んでた)が絶対正義の一択なわけだけれど、短パンの丈とトランクスの丈のあんばいがうまくないとトランクスの裾が外にはみ出てしまうのだ。

 トランクスだけならまだいい。真の悲劇は、真に情熱的な刑事がはみだす場合である。放っておいてはみだしてくるほど情熱的な刑事はさすがに中学生では稀だと思うが、太ももが細かったりする場合、角度によって「隙間から見えちゃう」ケースが往々にしてあるのだ。あれは悲劇だ。悲劇だった。僕はなかったけど。なかったと思いたいけど。

 そんなはみだし事例が問題化したせいかどうかは知らないが、僕の母校でも数年後には学校指定のハーフパンツが導入されたようであった。ただ、見てみたらそれがまた、ダサい指定ジャージにぴったりのダサい感じで、なんともまあうーんであった。でも短パンよりはいいか。

 最近はハーフパンツよりもむしろ短パン、ハーフパンツと短パンの間というか、ちょい膝上ぐらいの丈のものが増えてきたように思う。おかげでおっさんの太ももを目にすることも多くなってきた。なんともまあうーんである。が、暑いときに涼しい格好をできるのは合理的でよい。

 ただ、僕はなんだか気恥ずかしくて穿いてもハーフパンツ止まりだ。さすがにハーフパンツで出勤はできないが、休日の外出や自宅の部屋着にはハーフパンツを穿く。ただ、それらはなんとなく「短パン」と呼んでいる気がする。

 そういえば「半ズボン」っていう呼び方もある。半ズボンってそのまま訳すとハーフパンツだけど、短パン的なイメージが強い。というかそもそも「ハーフパンツ」と「短パン」をそうやって分けていること自体が僕の個人的感覚なんだろうか? 方言とはいわないまでも、これってもしかして……?

 勝俣が穿いているのは何だ? ハーフパンツ? 短パン? それとも半ズボン? ハーフパンツって何だ?


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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