#89 マヨネーズ

2015.05.21

 妻がマヨラーである。

 結婚前、ずいぶん前、初めて妻の家で唐揚げを食べたとき、そこに添えられたマヨネーズの量にぶったまげたのをおぼえている。その皿の光景を今でも鮮明におぼえている。

 どっぷり。

 これ、うちの何回分だよ……という一回分。自分の家では絶対にありえなかった、考えたこともなかったほどの、大量のマヨネーズ。当時の僕の常識でいえば事故レベルである。誤って蓋が外れてしまって出た量。それが、当然のように目の前に。

 後ろめたさと共に口に運んだ。うまかった。うまい、うまいよな、マヨネーズ。

 結婚後はマヨネーズの銘柄も指定されている。そもそもが僕としてはマヨネーズなんてどれも一緒なんじゃないの、そのとき安いの買えばいいんじゃないのと思っていたのだけれど、妻に言わせると「酸味が違う」のだそうだ。そう言われて食べ比べてみると、たしかに全然味が違う。酸味、違うわ。びっくりしたわ。たしかにマヨネーズといえば卵と油と酢なわけで、酸味って大事なのだなと思った次第。我が家は「酸味が少なめ」を選択していますが。

 買っているのは別に特別な商品ではない。いくつかある有名メーカーのうちのひとつ、普通のプラスチックチューブのである。普通に安い。助かる。最近は食材屋さんに行くといろいろありますね、珍しめな高級品や、瓶詰めのやつなど。あれ、楽しいね。ごくたまに贅沢して買うけど。たしかにマヨネーズなんだけど、別物感がすごいのね。

 その中に、明らかにマヨネーズなのにマヨネーズと言えないやつってあるじゃないですか。マヨネーズタイプ、とか言うの。たしか法律で決まってるんだよね、あれ。マヨネーズと表記できるのは、材料がこれとこれとこれで、何パーセントで、みたいなルールが。昔の、粗悪な品が多いような時代に消費者を守るためというのならわかるけれど、きょうびそんな商品は勝手に淘汰されていくわけなので、いかがなものかと思うんだけれど、どうなのかなあ。だめかしら。

 さて、今では僕もすっかりマヨネーズが好きだ。妻に影響されて、というよりは、もともと好きだったんだろうとは思う。ただ、それを自覚したことがなかった。

 マヨラーという言葉がまだない頃、僕はマヨネーズの存在を意識したことがあまりなかった。マヨネーズは味噌や塩や醤油のような調味料のひとつでしかなくて、好きか嫌いかでいえば嫌いじゃなかったけれど、マヨネーズを好きかどうかなんてそもそも考えたことがなかったのである。今みたくMかSかみたいなこと言われるまでは自分がMなのかSなのかなんて考えもしなかっただろう。それと同じである。

 かけられる場ではついついかけてしまうし、かけ過ぎてしまいがちである。お好み焼き屋さんの席に置いてある業務用っぽい巨大なチューブ、あれ、ぐっとくる。マヨネーズをかけ放題にしてよいなんて、なんたる太っ腹だろうと感じる。

 というのも、僕が通っていた大学の学食ではマヨネーズはかけ放題じゃなかったのである。醤油やソースやドレッシングはかけ放題なのに、マヨネーズだけは買わなければいけなかったのだ。一回分使い切りサイズのアレを、たしか十円で。僕の母校は男子が多いし、飢えた男子学生のモラルなど期待できないし、きっと学食側も苦肉の策だったのだろう。妻の大学ではかけ放題だったそうだ(と語る妻の笑顔)。僕も、もしマヨネーズがかけ放題だったら法外なかけかたをしていたと思う。白いご飯だけ注文して、かけていたと思う。

 マヨラーの妻であるが、マヨネーズごはんは認めていないようだ。僕はマヨネーズごはんが好きだ。けっこう好きだ。白いごはんにマヨネーズをかけて、醤油をかけて、気分によっては少々わさび。独身時代の独り暮らし時代にときどき食べていたし、今でもたまーに食べたくなってしまうのだが。

 そんな僕は、すっかりマヨラーなのかもしれない。ただ、マヨラーと自称するのにはやや抵抗がある。だって、だってさ。マヨラーってなんなんだよ。マヨネーズならマヨネーザーだろうが。ブルドーザーか。それじゃ長いか。だったらマヨナーか。マヤーか。短くてわけわからんか。

 ラーってなんだ太陽信仰か。またはドラクエか。完全にアムラーからじゃないか。いや、アムラーは安室だからアムラーで合っているのだ。悪いのはシノラーだ。篠原なのにシノハラーではなくシノラーとしたところが間違いの始まりだ。終わりの始まりだ。なんでもラーでいいシステムの起源だ。

 もし安室ちゃんじゃなくて坂田ちゃんだったらサカターだったのか。そしたらシノラーもシノターだったり、マヨラーもマヨターか。アバラーもアバターか。いいじゃねえか。

 アバターはむしろアバラーなんじゃねえか。なんだアバラーってスベアリブか。スペアリブの揚げたやつにマヨネーズたっぷり添えて食ってやろうか。うめえか。うめえだろうな。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com