安心感。ポケットティッシュが何千袋あろうとも、一箱の箱ティッシュには敵わない。枚数ではない、存在なのである。もし僕が「安心感を与えてくれるものランキング」をつくるとしたら、かなり上位に食い込むと思う。

 二十歳の頃から花粉症である。北海道はスギではなくてシラカバ花粉、時期は四月から五月にかけて。早めに薬を飲んでおくことである程度は症状を抑えることができるが、それでも花粉の飛散がひどい日は鼻水ずびずびおめめかゆかゆである。

 そんな時期に手持ちのポケットティッシュを切らしたかなにかで、ついカッとなって、自宅から箱ティッシュを職場へと持ち込んだのが始まりだった。そしたら、その安心感たるや、である。便利さたるや、である。鼻水対策としてはもちろん、自席での昼食や間食の後や、茶などを机上にちょっとこぼしてしまったとき、その他もろもろ、箱ティッシュは八面六臂の大活躍である。いつしか僕は職場の自席に箱ティッシュを常時設置するようになってしまった。通常の箱ティッシュを一つ、それに加えてよく鼻をかむ時期にはセレブ的なティッシュを一つ。ちなみにセレブ的なのはセレブではない他社製がお気に入りである。

 もともと、ティッシュに依存している自覚はあった。幼い頃から慢性的な鼻炎持ちということもあるのだけれど、なにかにつけてティッシュに頼りがちな人生をおくってきた。そんな僕にとって箱ティッシュは心のよすがであった。僕の目はいつも箱ティッシュを探した。ソファテーブルの上、ダイニングテーブルの上、枕元。箱ティッシュはいつでも僕のそばにいた。箱ティッシュのない家なんて考えられなかった。なにかあってもこれさえあればなんとかなるという安心感は、これがなくては落ち着かないという不安と表裏一体である。

 実家を出てから米を切らしたことはあっても、箱ティッシュだけは切らさないようにしてきた。五箱セットを買ってきてビニールを破き、一箱ずつバラにしてから戸棚にセットする。そのほうが新しい一箱をスムーズに使い始められるからだ。

 箱ティッシュの箱が今のように薄くなったのは、いつからだったろうか? 正確なタイミングは思い出せないけれど、まだ実家にいた頃、たぶん僕がまだ高校生とかの頃じゃないか。あれは衝撃的だった。箱は薄くなり、それでいて枚数は同じという衝撃。もちろん、それまでの箱ティッシュ内部にあった無駄な空間というのは技術的に必要な空間だったと思うのだけれど(今でもセレブ的なティッシュは大きな箱だものね)、当時それだけ技術が進んだということなのだろう。、二十世紀末に突如訪れたイノベーション。その衝撃に引きずられて僕は、最近出ている「他と比べて安いと思ったら、実際、枚数も少ないでやんの」という箱ティッシュをしばらくそうと気づかずに買っていた。悔しい。

 まあいいのだ。安いにこしたことはないが、安さだけで箱ティッシュの価値は決まらない。ティッシュ自体の質も大切だが、よっぽど安物じゃない限り各社さほど差はない。それよりも僕が箱ティッシュに長年、不満を抱いているのはパッケージのデザインである。花柄だったり花じゃなくてもなんらかのファンシーなモチーフだったり、どうしてそんなのばっかりなのか。あれがもうほんと、なんなの、ってぐらい嫌いなのである。ちょっとでもシンプルなデザインの商品をつい手に取りたくなるのだが、そういう商品に限って高かったりするのだ。悩んで、悩んで、やっぱり安くて花柄のほうを手に取ってしまう。むぐぐぐ。悔しい。

 というわけで我が家では、箱ティッシュに被せるカバーを使っている。なんだあっさり解決してるじゃねえかとお思いかもしれないが、僕だって本当はこんなもの使いたくないのだ。カバーの中の箱ティッシュを詰め替える、あの億劫さ。カバーを使うようになってから、箱ティッシュを使いきった瞬間のガッデム度が上がった気がする。あの「最後の一枚を抜き取ったときの手応えと、そのときの心のざわつき」にはいまでも慣れることができない。ざわつく心をつとめて鎮め、戸棚から新しい箱ティッシュを取り出す。ビニールを破いておいて本当によかったと、このときに思う。

 至る所に置いておきたい箱ティッシュだからこそ、その存在感はなるべく消しておいてほしいし、なおかつカバーなんか使わせずに気軽に置かせてほしいのだ。調べてみたら、どうやら最近はまったく無地のシンプルな箱ティッシュがあるみたい。そうそう、そういうのなんだよなあ。願わくば僕の生活圏内で、しかもお安く買えますように。

 最後に暮らしの一口メモ。洗濯機の中にポケットティッシュが入ると大変なことになるけど、箱ティッシュが入るとさらに大変なことになるぞ! なんせ箱ごといくからな! みんなくれぐれも気をつけて!


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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