#82 独学

2015.04.02

 ケーキが美味しくてときどき利用している近所の小さな洋菓子屋さんのことが地域のフリーペーパーに載っていたのだけれど、オーナーパティシエのことが「お菓子づくりの技術は独学で……」と書かれていて「お、おう……」ってなった。

 またあるとき、あるデザイナーさんがインターネットで紹介されていたときも「デザインを独学で……」と書かれていて「お、おう……」ってなった。

 独学であること自体は別に構わないのだが、それを敢えて書く意味があまりよくわからない。なんとなくかっこいいから、っていう雑な理由で独学と書かれていることってけっこう多いんじゃないかと思っている。僕自身、わりと最近まで「独学」ってなんかかっこいいなあと思っていたし。でも、冷静に考えてみると別にどうってことはないのではないか。

 仮にその経歴や師事した人について具体的に記述することが求められている文脈において、他に書きようがないから仕方なく独学ということを書く……ならわかる。でも、僕の感じた印象として「独学で」と書かれているときはたいてい「すごいことだ」というニュアンスが含まれていることが多い。

 まあたしかに、旧来の常識にとらわれない新しさや試みの姿勢を強く打ち出して表現したかったり、業界でのアウトロー感を演出したかったりというケースはあるだろう。そんな演出が効果的な業種もあると思う。商品それ自体ではなくてその背後にあるストーリーが大事なんだぜ、という考え方も理解できる。でもさあ、そのストーリー要るか? という場面も少なくないと思うのだ。町のふつうのお菓子屋さんが独学だろうが学校に通ったことがあろうが客からすれば関係ないし、僕は「操縦を独学したパイロット」の飛行機には乗りたくない。「我流」と「独学」は重なる部分もあるけれど微妙に違って、独学だからといって我流であるとは限らない。既存のスタイルを自分で学べば独学である。

 もちろん、もちろん独学自体を否定するものではない。独学するのにもいろいろな理由・動機があると思う。そもそも通える学校がなかったり教われる先生がいなかったり、あったとしても費用が不足していたり時間が不足していたり、はたまた、遊びで始めたつもりがそのままのめりこんで……なんていうこともあるかもしれない。

 後者については「振り返ってみれば結果的に『独学』になっていたね」というものだろう。問題は前者、すなわち「学びたい」という気持ちがありながら環境的要因により独学せざるをえない場合。この独学は、難しい。とっても難しいと思う。

 僕自身はどちらかといえば「学校に通う派」の人間だった。まあ、あまり普通の学校教育から外のれたことを学んだことがないというのもあるけれど、中学生の頃は学習塾に通っていたし、大学受験こそ塾や予備校には行かなかったけれど、それを「独学」と呼んでよいものかどうかは微妙である(普通の「受験勉強」だったと思う)。特別な習い事もしなかったし、楽器をやったわけでもないし。

 なんだかんだ時間がある学生の頃はまだしも、大人になってから何かを学ぼうとしたときには独学はさらに困難になる。どうしても忙しくなるし、その忙しい日々の中で「学びたい」という気持ち自体があやふやに埋もれていってしまうからだ。逆説的ではあるけれど、忙しいからこそ学校に行く時間を工面して、強制的に学ぶ態勢に入ってしまうというのは有効な手立てであるように思う。僕もコピーライターの勉強をするために宣伝会議の教室に半年間通ったっけ。身銭を切るというのは悪くない。ちなみに皆勤賞でした。真面目なので。

 とはいえ、やっぱりなんでもかんでも学校に通おうってわけにもいかないのが大人というもので。もし何かを学びたいなと思ったら、独学するという選択肢があるにこしたことはないだろう。

 独学は意志との戦いだと思われがちだけれど、もちろん意志が強い人には苦じゃないのかもしれないけれど、意志の問題にしてしまってはいけないんだよなあ、きっと。と思う。仕組みの問題、システムの問題にしてしまわないと。「人は気が散るし、いやなことはしたくないもの」という前提でいかにお膳立てを整えるか、いかに自分の機嫌を取りながら、そしてコツコツと積み重ねていけるかというのが大切な気がする。僕の場合は「資格取得をめざす」っていうことで独学を続けることに成功したことがある。目標と期限が決まるのがいいのかもしれない。簿記と英検。取るだけ取ってその後に生きていないので、なんつうかまあ、なんつうかだけれど。

 ひょっとすると、大人の人生を楽しくするのって、独学スキルを身につけることなんじゃないか。「独学の方法」を学べる学校があったらそこに通いたい気もする。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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