#81 充電

2015.03.26

 その昔、僕の家にあるものの中で、充電しなければならないものといったら父の電気カミソリぐらいしかなかった。そのほかの電気で動くものはすべてコンセントに直接プラグをインするか、乾電池であった。そもそもそんなにコードレスなものがなかったし、コードレスなものは概ね乾電池を必要としていた。

 今、ほんとうに充電ばっかりだ。「ここ一週間、なにひとつ充電していない人」がどのぐらいいるだろう。いつからこんなに充電が当たり前の日常を僕らは暮らしているのだろう。最近じゃ充電する車もあるし、家庭用の蓄電池なんつって家まで充電できる時代らしい。

 携帯電話かな、と思う。もちろんそれだけじゃないが、僕自身が充電というものを意識して生活し始めたのはやはり、携帯電話を持つようになってからだ。飲食店や空港なんかでよく携帯電話の充電器を手にコンセントを求めてうろうろしている人がいるけれど、あれを見ると「現代人マジ充電の奴隷だな……」と感じる。モバイルバッテリーが普及したせいかそういった人を目にすることは以前より減った気がするけれど。でも、あれだって携帯電話に充電するための電池を家で充電しているんだから、なんという充電無間地獄というか。

 どだい今は乾電池も充電できるのだ。いや、充電できる乾電池自体は昔から存在したが、一般的なスタイルとして定着したのはやはり今はなき三洋の「エネループ」の登場によるところが大きいだろう。経済的であることはいわずもがなであるが、そっちのアプローチよりはむしろ「環境にやさしいでしょ?」ひいては「そのほうがかっこいいでしょ?」的提案で、一気に浸透した印象がある。前述のとおり携帯電話(およびデジタルガジェットたち)の登場によって、僕らが既に「日々の充電」に抵抗がなくなっていたというのもあるかもしれない。

 子どもの頃、充電できる乾電池がものすごく欲しかった。いうまでもなくミニ四駆のためだ。家に買いおきしてあって自由に使える乾電池はマンガン電池。でも、それではミニ四駆は速く走らない。速く走るにはアルカリ電池が欲しい。でも高い。高いうえに使えばなくなってしまう消耗品である。月々のお小遣いをやりくりしてなんとかミニ四駆本体ならびにグレード・アップ・パーツを購入する小学生鈴木にとって、アルカリ電池の導入はハードルが高すぎた。その点、充電式のニカド電池なら、速く走れるうえに何度でも繰り返し使える。夢の電池である。高いけど。あと充電器も高いけど。生まれて初めてイニシャルコストとランニングコストの狭間で悶える小学生鈴木。

 悶えすぎた小学生鈴木は結局、家にあった壊れたおもちゃを分解して乾電池ケース部分を取り外し、使い古したマンガン電池を入れ、金具を細工して、それをコンセントにぶっさした。いうまでもなく感電した。100Vの国で本当によかったと思う。ニカド電池と充電器のセットは結局、小学校高学年になってからお年玉か何かでフライングフロムキヨミズステージプレイを決めた。本当は急速充電できるやつが欲しかったけど、そっちは買えなかったっけな。

 今、僕の身の回りのものはほぼ充電式になっているけれど、逆に乾電池式のほうが有り難いものもある。僕が取材に使うICレコーダーは乾電池式で、エネループを入れて使っているのだけれど、万が一電池が切れたときに乾電池を買えば代用できるというのは非常に心強い。専用の充電池でなければ使えなかったり、そもそも入れ替えができなかったりするものでは、こうはいかない。まだ一度もそのような事態になったことはないが、安心感が違うよね。

 これだけ充電に囲まれて生きているのに、充電の技術的な、基本的なところを僕はよく知らない。充電池は満タンになっている状態でコンセントにさしっぱなしにしているのはよくないだとか、中にたまっている電気をしっかり使いきってから充電しないといけないとか、以前はよく言われた気がするけれど、「最近の充電池は技術が進んだからそのへんあんまり関係ない」っていう話も聞くし。どっちなんだ実際。教えてくれませんかね、三洋の人とか。

 そういや人間の元気だとかやる気だとかも「充電」と言うけれど、この言い方って昔からだろうか。活動休止している期間のことを「充電期間」と表現したりするのも。なんとなく最近、それこそ充電の奴隷の日々を送るようになってからのような気がしますが、ちょっとわかりません。どうでしたっけ。

 人間のやる気と車のバッテリーは似ているという話を読んだことがある。曰く、エンジンを回し続けていれば電池切れすることはないけれど、回すのをやめるとたちまちバッテリーがあがっちゃうんだと。たしかにね、感覚的によくわかる。現在進行形充電しながら生きている。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com