#79 タイツ

2015.03.12

 白いタイツをはいた写真が一枚だけある。たぶん幼稚園の入園式の集合写真である。僕がタイツをはいて撮られているおそらく唯一の写真である。

 最近どうかは知らないが、僕が子どもの頃はよくある光景だった。女児はともかく男児にタイツを、それも白タイツをはかせるというのはどういうわけなのか。ずっと疑問に思っている。

 由来はなんだろう。大昔の西洋貴族の服装的なことなんだろうか。ルイ何世とかの白タイツの肖像画、たしかに見たことある気がするぞ。まあ、晴れ着という意味ではわからなくはないが、僕のような平民の出の人間がそんなときだけ白タイツをはいてみたところで、エレガンスが向上するかどうかはたいへん疑わしい。鈴木少年がはく白タイツ。それはつまり、ほぼ、ももひきである。冬にはいていたグンゼのももひきと同じである。エレガンスは遠い。

 白タイツに僕が長らく疑問を感じていた理由は「タイツは女性のもの」という意識だ。服飾史を紐解けばそんなことないのかもしれないが、タイツを着用する機会は女性のほうが圧倒的に多いと思う。まあ、それでも随分と状況は変わってきたようで、最近じゃ男が、子どもも大人も、タイツを、それもシャレオツなタイツをはいて、その上から短パン重ねちゃったりしているわけである。あれ、僕自身は抵抗があってまだ試したことがない。世の中的な変化はわかるが、僕の中でまだ変化についていけていないのである。

 男の場合は結局、股間の処理がどうなっているのかと思うわけなんですよ。パンツの上からタイツまではいて、もちゃもちゃしないのかと。短パンで隠しているとはいえ、快適性という意味ではどうなんだと。ポジションは安定するのか、それでいて通気性はどうなのかと。僕には未知であり、恐ろしい世界である。男のタイツ界。

 興味がないわけではないのだ。というのも、ファッションとしてはともかく、スポーツウェアとしてのタイツがこれまた随分と一般的になってきて、僕がいそいそいそしんでいるランニング用のタイツだけでもいろいろと商品が存在するのである。これが、防寒目的というだけでなく、やれ体を正しく固定することによって筋肉のブレを軽減するだとか、やれ着圧によって疲労をたまりにくくするだとか、いろんな機能が目白押し。そんなにいいことばっかり言われちゃうと、僕もついにタイツをはこうかという気分が盛り上がってくる。インターネットに耽る。

 しかし。やはり現在のところ、僕はタイツを買わずにいる。すごい機能を持ったタイツは高価だし、機能のないタイツは比較的お手頃だけど機能がないならそもそも要るのか? と思ってしまうのだ。結局、僕のようなシリアスではないランナーごときには必要ないもんね、という気持ちになって、インターネットを見るのをやめてしまう。春夏秋は短パンで走るし、冬は長ズボンで走る。それでいいと思っている。気にはなる。なってはいるのだけれど。

 そんな僕が、実は唯一所持しているタイツがあって、それは高校生のときにひょんなことから入手した全身タイツである。この全身タイツは女性のためのタイツというよりは(かといって男性用というわけでもないが)衣装的な意味合いに僕には思えたので、特に抵抗なく、というよりはむしろ「えっ、マジで手に入るの?」とウキウキ気分で入手したものなのだけれど、初めて全身タイツを着たときの感動たるや、ちょっとびっくりするぐらいだった。

 全身タイツ、着用したことがあるだろうか。ない人はぜひ一度、試してみてほしい。タイツがtight、つまりは「ぴったり・ぴっちり」という名前である理由が全身で瞬時に感じられる。直感といってもいいほどにストレートに感じられる。あの包み込まれている感じ。「きゅっ」っていう感じ。ホーミタイな感じ。ホーミタイのタイはタイツである。それでいて、ボディラインのすべてをさらけ出しているあの感じ。安心と不安の高速往復運動。あれはやばい。やばいからぜひ。

 ところで、ここまで、むさくるしいことこの上ない男のタイツについて、つまりはすね毛を覆い隠す皮膜としてのタイツについて書き連ねてきたけれど、いちおう最後に「女性のタイツ」についての僕の見解を記しておきますと、とても好きです。大好きです。厚さを表すあの「デニール」という単位。素晴らしいですよね、デニール。魔法の響き、デニール。その数字、大きくても小さくても構わない。薄手でも厚手でも構わない。デニールに貴賤なしであります。

 ああ、そうそうついでに書いときますけど、レギンスやらトレンカやらが男受けしないアイテムだなんていう言説を時折目にすることがあります。ありますけど、よくもまあいけしゃあしゃあと、そんなデマを流布してくれるよなと僕はたいへん憤慨しています。大好きだよ!


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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