#73 ダンス

2015.01.29

 大学一年生のとき体育が必修で、そもそも大学まで来て体育が必修なのが驚きだったのだが、別に嫌いじゃないので一週間に一回のレクリエーションみたいなものだと捉えていた。で、前期のはじめに種目が選択できて、卓球やらバドミントンやら色々あったと思うのだが、そのラインアップのひとつに「お」と感ずるところあり、選んだのがダンスであった。

 入学してすぐに仲よくなったN君と二人、たまたま並んで座っていたのだと思う。二人でダンスいいねーなんつって二人してダンスを選択、蓋を開けてみたら男子は僕とN君の二人だけ、あとは全員女子という結果になった。羨ましいと思うだろうか。どっこいこれがなんといおうか、微妙だったといわざるをえない。体育で男女混合っていうのがまず小学校以来だし、あとは、まあ、やりやすさとかいろいろだ。いろいろある。いろいろ微妙だった。

 それでも基礎のレッスンからエアロビクス、ジャズダンス、最終的にヒップホップまでやるという当初の説明に、ダンス経験のまったくない僕はたいそう期待していた。たいそう期待しながらエアロビクスに明け暮れた。毎週、毎週、ステップふんで、有酸素運動して、前期が終わった。エアロビクスだけで終わった。たかだか週に一回×四ヵ月であるから、スケジュールに無理があった。話が違うなーと思いながらマーチからのグレイプバインしていた。痩せなかった。

 なぜダンスを選択したかといえばエアロビクスして痩せるためじゃなくて理由があって、それは僕が演劇をやっていたからである。高校演劇に明け暮れていた当時、札幌で観る小劇場の舞台やビデオで観る東京の舞台のかっちょいいダンスシーンに憧れていた。ミュージカルを観たことはなかったけれど、ストレートプレイのオープニングや途中に挿入されるダンスシーン。チームナックスとかさー、大泉さんがまだ在学中の北海学園大学演劇研究会とかさー。ルネッサンスマリアテアトロでさー。憧れながらも、高校の演劇部ではトライできないままで終わっていたのだ。

 あと、演劇部の先輩で卒業後に上京して演技の学校に進んだ人がいて、曰く「仮に舞台上で踊るんじゃなくても、ダンスのレッスンをしておくのはいいこと」ということだった。たしかセリフにリズムが生まれるとかなんとか、そんな話だったように思う。なら、なおのことダンスしなくちゃ! と思った鈴木。マーチからのグレイプバイン。滝の汗、痩せない腹。

 いいなあ、ダンス。やってみたいなあ、ダンス。って今でも思っている。今でも思っていることにこの原稿を書きながら気づいて驚いている。

 その気持ちの源を考えてみる。ひとつはたぶん、自分の体を自分の思う通りに動かすことへの欲望だ。ダンスを観ていていつも心底感じるのは「人間の体ってこんな動き方するのか!」という至極単純な驚きであり、そこに僕はぐっとくる。大人になって、高校の同級生がコンテンポラリーダンサーとしてバリバリ活躍中なので彼の公演を何度かと、それをキッカケにして別のカンパニーの公演をいくつか観たけれど、作品のテーマだとかメッセージだとかよりも前に、今そこにある体のありように僕はぼーっとしてしまう。すごいなあ、人間。って感動してしまう。特に鍛え上げられたダンサーの体なんていうのはもうしなやかでしなやかで「肩こりとか絶対にしないだろうな」っていうしなやかさで、インドア派を気取ってダルダルな体を持て余してきた僕はもうなんだか羨ましいやらへこむやら。

 そしてもうひとつは、非言語表現・非言語コミュニケーションへの憧れだ。それこそコンテンポラリーで見られるところのダンサーとダンサーが絡み合ったり持ち上げたりする動きや、大人数が音楽に合わせて踊ってびっしーっときまるようなパフォーマンスなど、あくまで自らの体でもって他者(舞台上の他のダンサー/観客)とコミュニケーションする、そこに僕はぐっとくる。自分がこのような職業を選択したのもあって、言葉なんか要らないその時間と空間を僕はとっても尊く感じるのである。音楽への憧れとも近いかもしれない。

 踊るのはきっと楽しい。舞台で演じたいという欲望はもうそれほどないけれど、もしうまく踊ることができるのなら、やってみたい気がしないでもない。「うまく」という部分はもしかしたら不要な自意識かもしれないけれど、それでも、別に誰も見ていなくたって、やっぱりうまく踊りたい。その技術はほしい。でも踊らなければうまくならない。あ、詰んだ?

 いやいや、きっとまずは深く考えずに踊ればいいんだ。酒でも飲んで自意識ぶっ飛ばして踊るか。踊っちゃうよ。いぇーい。うぇーい。今のところクラブとは無縁の人生だけどきっとそういうことだべ。いぇーい。うぇーい。

 今の子どもたちは小学校の体育でダンスを習うんだってね。いいなあー。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com