#71 パワー

2015.01.15

 ドラクエが好きだ。テレビゲームは詳しいわけでも上手いわけでもないけれど、ドラクエは小学生のときからずっと好きだ。きっと、ゆっくり考えながらできるのがいいのだと思う。ただ、僕はもっぱら戦闘のときはひたすら物理攻撃を繰り返すのみとなる。「ちから」の値が大きい戦士キャラクターが、重たい武器で、殴りつけあるいは斬りつける。敵キャラクターはひときわ大きなダメージを受ける。ああ爽快。となる。

 パワーはわかりやすい。ドラクエには他にも「呪文」という攻撃方法があって、それは炎だったり氷だったり風だったり雷だったりを操って敵キャラクターにダメージを与えるわけだが、たいがい呪文には相性というものがあり、この敵には炎は効かないとか、氷だったらすごい効くとか、いちいちめんどくさいのである。そのうえMP(マジックポイント)が減る。MPは簡単に回復できない。もったいない。その点、パワーはわかりやすい。ぶん殴れば当たる。当たればダメージが与えられる。MPも不要。単純明快、ああ爽快。となる。

 まれに、物理攻撃がとにかく当たらない敵がいて、そういった敵は呪文だと当たったりするんだけれど、僕はめんどくさがってついついAボタンを連打するだけ。ちょっとずつ殴る。そのようにして攻撃呪文のMPをケチった結果、戦闘が長引いてしまい回復呪文にMPを多く使わなければならなくなるということに気がついたのはごく最近のことだ。ゲームの素質がないのだと思う。

 パワーがわかりやすい、というのはなにもゲームの中の世界に限った話ではなくて、僕らの暮らす世間においてもそうだ。パワー、単純に言い換えれば物理的な意味で腕力のある人間は強い。非常にわかりやすい。まあ、筋トレ歴がまもなく半世紀になる僕の父親にいわせれば「ケンカが強くなりたいなら筋肉つけるより格闘技やれ」ってなもんで、必ずしも腕力=戦闘力ではないわけだけれど、それでも見るからにガタイがよいっていうのは、それだけである一定の抑止力を持つものである。僕は二十代の頃けっこう太っていて、身長はまあ平均よりはちょっとだけ高めで、そのうえ髪型も坊主頭にしていたもんだから、街を歩いていて絡まれるようなことは全然なかった。中身はがっつり文化系部活っ子なのに。また太りたいとは思わないけど、あれは便利だったな。

 ドラクエでいえば、とにかくパワー型といえる戦士のほかに、スピード型ともいえる武闘家というキャラクターもいて、僕はどちらかといえば「スピード型」に憧れるほうだった。肥満児だったからだと思う。かっこつけたかったのである。シュッとしていたかったのである。動くと「シュッ」っていう効果音が出るような男になりたかったのである。でも僕は肥満児なのに腕力もなかったから、もしかするとそれはパワー型への憧れの、ひねくれたかたちだったのかもしれない。

 もちろん人間社会はすべてが腕力至上というほど単純ではなくて、社会である以上、すなわち人と人とが複雑な関係性にまみれている以上、腕力を無効化するような方法はたくさんある。ただ、じゃあ、腕力がまったく物を言わないかといえばそんなことは決してなく、ただただそのシンプルさだけが物を言うときがあるのもまた事実であって、なおさらまことにややこしい。

 逆に、僕らの日常生活においてパワーとは、腕力のことだけを指すのではないともいえるだろう。経済力もあれば政治力なんていうのもある。ひいては権力。個人間でも一対一ってだけでなくて、ある組織の中のかけひきも。一方がもう一方の上に立つようなパワーのせめぎあい。組織と組織でもあるし、大きなものでは国と国の「パワーゲーム」なんていわれかたもしますね。なんですかパワーゲームって。僕のドラクエのことか。

 パワーなんちゃらっていう言葉、そういえばいくつかあるね。パワーランチとかいうでしょう。これは決して平日の昼からがっつり、おもちなどを食べて元気もりもりになろうというランチのことではない。力うどん的なことではない。つまりはビジネス的なミーティングをバリバリやったり人脈をバリバリ広げたりするランチのことをパワーランチと呼ぶらしいのだけれど、これが和製英語だか本来の英語だか知らないが、なんちゅう少年のようなネーミングだろうか。「バリバリやろうぜ! パワーランチだ!」って。恥ずかしくないのか。

 そうそう、パワーナップというのもあった。パワーな昼寝である。これもまたアレだ。効果的に短時間の昼寝をとれば頭がスッキリしてバリバリ働けるぜ的なアレだ。もうなんなのか、ビジネスに貢献する営みはすべてパワーっていっときゃいいのか。やっぱ経済がパワーなのか。わかりやすくていいな! マネートゥーザピーポーですわ。お願いしますわ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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