#69 手袋

2015.01.01

 冬の街を歩いていると、あちらこちらに手袋が片方だけ落ちていたりして、ほのかに哀れな気持ちになる。手袋はなくしやすいものだ。出先で、ちょっと脱いで、ポッケに入れたつもりで、いつの間にか片方だけ落としてしまったりする。片方だけなくしてしまったからといって、片方だけを買い足すことは難しい。子どもの頃は手袋をなくさないように紐をつけられていたけれど、あの習慣は今でもあるのだろうか。

 北海道弁では「手袋をはく」という。それが方言だということを今では僕も知っているけれど、どうしても「手袋をはめる」がしっくりこない。

 これだけテレビを通じて標準語に触れまくっている現代であるから方言を標準語に置き換えたとしてもそんなに違和感をおぼえることはないが「手袋をはめる」の違和感は僕のなかでかなり大きいままだ。どうしてなのかはわからないが、身体感覚と密接な言葉だからかもしれない。そういえば手袋を「はめる」のだとして、その反対はそもそも「脱ぐ」で正しいのか? 「はめる」の反対は「はずす」か? どんどんわからなくなっていく。というわけで僕はこの冬も手袋をはいている。

 冬の防寒具として手袋は必須アイテムだ。北海道の冬にはなおさらだ。秋、いちばん最初に手袋をはくのは自転車に乗る人たちで、その手元を見て僕は冬の到来を予感し、ポケットに手をつっこんで身をすこし縮める。男子中高生なんかは軍手をはいたりもしている。なぜ手袋ではなく軍手なのか。一見不可解だが、その感じはちょっとわかる。

 手袋をかっこわるいと感じる時期があった。たしか僕が中高生のころだ。冬だからといって、暖かいものを身につけるというのがかっこわるいムードがあった。真冬も制服にマフラーだけみたいな(僕にはできなかったけれど)。

 たぶん寒いから手袋というのがそのまんますぎるのだ。今でこそ、手袋を含めてファッションとして理解することはできるけれど、それは「寒い」ということを受け入れた上でのお洒落姿勢である。だがしかし、若い僕らにはその受け入れ体勢(あるいは耐性)がない。だから冷たい手をポケットにつっこむしかない。今の中高生でいえばそれが軍手なのかもしれない。これも若者特有のつっぱり精神なのだろうか。僕はつっぱりでは全然なかったけれど、どこかでつっぱりたい気持ちがあったのだろうか。

 とはいえ、冬の北海道の寒さは厳しい。北海道じゃなくても冬は厳しいものだけど、まあ、客観的事実として氷点下だし。札幌ごときの寒さでギャーギャーぬかすなと旭川方面から罵声が聞こえてきそうですが、そのへんはいいじゃないですか。寒いの。寒いんだもん。寒いんである。手袋はかずに外を歩けば、手なんてすぐさまカッチカチである。痛くなる。ポケットに手をつっこんで歩くときもあるが、なんせ足元もツルツル路面だったりするものだから危ない危ない。素直な気持ちで手袋をはけるようになってよかった。大人になってほんとうによかったと思う。

 せっかく着用せねばならないアイテムならばお洒落をしたいと思うところだが、ただお洒落なだけでは意味がない。京極夏彦の手袋とは意味合いが違うのである。なにはなくともまずは実用性だ。冷たい風をばんばん通してくるような中途半端な手袋は、結局のところ手袋の指部分から指を抜いて、中でギュッと握り拳をつくっていなければならなかったりする。空っぽの手袋の指がぷらんぷらんと揺れる。だったらはかないほうがいい。最低限、しっかりと暖かいこと。当たり前だけどこれ大事な。

 で。それもふまえて他の実用性であるが、手袋というのは指先が覆われてしまうわけで、僕らはふだん指先でいろんなことを行っているわけで、スマホ用手袋は指紋認証的にエヌジーなわけで、このへんはもう非常にジレンマなわけである。指先だけカットオフされているタイプの手袋が昔からあって、もちろん手の甲を保温するのは非常に大事なわけだけれど、人体は末端から冷えるわけで、指先の痛さが半端ないわけで、どうすりゃいいのって感じである。

 というわけで手袋に関していえば僕はまだ、運命の出会いを果たすことができていない。安くて、なんにでも合う黒色の、毛糸だかアクリルだかの手袋をなんとなーくはいている。で、そんなどーでもいーって思っているようなものだから、冬が来るたびに家のどこにしまったんだかわかんなくなって、買い直す。買った後に意外なところから出てくる。増殖する手袋。僕は今、自分がいくつ同じような黒い手袋を持っているのか把握できていない。なんだか軍手と同じ感じで、手袋に申し訳ない気もしてきてしまう。

 新美南吉の『手袋を買いに』みたく、愛おしくなるような手袋をいつか手に入れたい。そしたら紐でも縫いつけて、なくさないようにしなくっちゃ。ああ、北海道の冬は寒い。お手々がちんちんする。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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