#67 楽器

2014.12.18

 リコーダーは上手い方だったと思っている。ただ単純に、音楽のテストの時間の演奏として、ミスが少ないという意味で。それだけである。それがいったい何になるというのか、いまいましい。

 僕は楽器ができない。もし今ソプラノリコーダーを渡されて「吹け」と言われればまあ吹くぐらいのことはできるだろう。サミングしたりタンギングしたりぐらいは今でもできるだろう。あるいは鍵盤ハーモニカを渡されて「吹け」と言われればまあ、白いホースじゃなくて黒くて短い口だけでなんとか吹くことはできるだろう。裏のボタンを押しながら中にたまった唾液を抜くだろう。でも、僕は楽器ができない。

 リコーダーや鍵盤ハーモニカがそれはそれで魅力的な楽器だということはわかる。けれどやっぱりそれは「一周まわっての魅力」であって、たとえば僕が、小学校中学校で習ったリコーダーと鍵盤ハーモニカとでもって「僕は楽器ができます」と言うことは、やはり違うと思うのだ。

 どうしてこうなってしまったんだ。英語が喋れない英語教育もアレだが、楽器が弾けない音楽教育もアレなんじゃないか。あれだけの膨大な時間を、楽譜に「ドレミファソラシド」をカタカナで振ってその通りにリコーダーや鍵盤ハーモニカで吹くだけのことに費やすんなら、少なくともコードがどうかだとか、調がどうとか、なんだったら「この部分さえ弾ければ気持ちよくなれるギターのフレーズ」とかを教えてほしかった。練習させてほしかった。そのほうがよっぽど現実的な音楽教育だったんじゃないのか。

 いちどだけギターを買ったことがある。高校受験が終わった後の春休み、地元の楽器店で、温存していたその年のお年玉を使って、初心者用のメーカー不詳エレキギター。一緒に買いに行ってくれた同級生から「月刊歌謡曲」の古本をもらって、それを見ながら、ああ、指先痛いなーと思いながら。でも、全然楽しくならなかったのであった。弾けるようになれば楽しかったんだろうけど、それまで辛抱ができなかった。辛抱するためのこらえ性が足りなかったか、あるいは辛抱する期間を共にする友達がいなかった。まわりはみんなとっくに弾けてて、僕は弾けない自身を恥じるようになり、誰にもそんな話をできず、そのうち高校の部活が忙しくなってきて、そのまんまになってしまった。

 僕は楽器ができない。だから、楽器ができる人のことを無条件で尊敬する。これは、本当に無条件である。年上年下関係ない。なんだったら上手い下手も関係ない(僕にはそんなにわからない)。プロだろうがアマだろうが関係ない。ギターであれベースであれドラムであれ、吹奏楽部の管楽器であれ、クラシック音楽の弦楽器であれ、そしてもちろんピアノであれ。音を鳴らせる人。奏でられる人。自分で聴きながら、それを人に聴かせられる人。そんな人たちのことが僕は、羨ましくてたまらない。

 ぜったいに人生が楽しいと思うのだ。楽器演奏がどれだけ生活の中心にあるかどうかは人それぞれだろうけれど、仮にもし何年も楽器を演奏していないという人であっても、普段聴くだけだとしても音楽と結ぶ関係性が違うだろうなあとも思うし、どんなに指が動かなくなっていたって音が鳴ればぜったい楽しい。それを誰かと一緒に鳴らせばもっと楽しいし、聴き手がいれば最高だろう。何年か前に友人の結婚パーティーで、赤フン男子たちがチャゲアスを歌うという余興を見る機会があったんだけれど、そのときひとりだけ歌わず椅子に座りにコントラバスを弓弾きしている赤フンがいて、なぜかコントラバスだけ生音で、もうなんつうか、めっちゃよかった。あれは人生楽しい。

 ああ、みんなどうして楽器が弾けるのだ。尊敬する。そしてどうして僕は楽器が弾けないんだろう。

 やりゃあいいのだ。そんだけ言うならやりゃあいい、それだけなのだ。わかってる。ひねているだけということはわかっている。ただ、今の僕にはもう「楽しくなるまで辛抱するモチベーション」がまるでないのだ。幼い子どものように親から強制されるわけでもなければ、男子中学生のようにバンドをやってモテたいという衝動もない。大学のサークルのような成り行きもない。これから先あるとすれば、ウリナリみたいなテレビ番組に出ることぐらいだ。オファーを待つしかない。

 ああ、それでも、いいなあ楽器。演奏できるようになりたいなあ。そういえばうちにある「大人の科学マガジン」のテルミンが、買っただけで何年も放置されているなあ。でも、最近出たスチールドラム、あれは楽しそうだなあ……パーカッションならできるかな……こらこら、アサラトが放置されていますよ……。

 気持ちよさそうに歌っている人を見ると、楽器になっているのかなと思う。楽器が演奏できないのなら、楽器になれたらいいのにな。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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