#65 助っ人

2014.12.04

 僕の職場のデスクにはデストラーデがいる。水色のヘルメットをかぶり、眼鏡の奥の目は笑っていない。打球をかっ飛ばした後の左打席の姿。かつてプロ野球の西武ライオンズに在籍していたデストラーデ。オレステス・デストラーデ。秋山、清原、デストラーデ。AKD砲の一角を成した強打のスイッチヒッターだ。

 このデストラーデは以前とある缶コーヒーがオマケにつけて展開していた「懐かしのプロ野球助っ人外国人選手フィギュア」の一つである。他には巨人のクロマティとか、近鉄のブライアントとか、新しめなところで横浜のローズとか……。全部で六種類ぐらいだったと思うがそもそも食玩としてそのテーマ設定自体がどうかしてるし、その人選もなんだか僕の年代にとってドンピシャな選手ばっかりで、やばい。非常にやばい。最高である。このへんの食玩系(特に缶コーヒーの付録)は明らかに僕の世代をターゲットにしており、それはマーケティング的には正しいわけであるから、マーケティング通りにホイホイされておくのがよろしい。小学生当時、コロコロコミックに連載されていたマンガ「かっとばせ! キヨハラくん」の影響で西武ライオンズファンだった僕は、インターネットでデストラーデのフィギュアの登場を知るや否や武者震いしてオフィスの椅子を蹴飛ばし、近所のコンビニ六軒ハシゴしてようやく手に入れた。

 助っ人、という言い方をプロ野球の外国人選手に対してするのは、やはり日本のプロ野球が劣っているということの、少なくとも名残ということなのだろうか。それこそクロマティやデストラーデやブライアントやローズ、あるいは阪神のバースみたいな時代に比べれば今ではその「助っ人」感は薄れたかもしれないけれど、それでも外国人選手との契約というのが助っ人的、つまりは即戦力の補強であることには変わりはない。もちろん無償で助っ人してくれているわけではないので、結果が出なければすぐに切り捨てられるというシビアな関係だ。彼らは「猫の手」ではいけないわけだ。

 一方で、猫の手的な助っ人というのもある。仕事の質というよりは量、頭数として必要とされる助っ人。僕の母校の高校には「すけっと同好会」なる部活があって、おそらく「ボランティア」という言葉が流行り始めた頃にできた比較的新しい部活だったと思うのだが、どうやらボランティア系の活動をしていたようである(幽霊部員も多数いたようだが)。詳しい活動内容は知らないのだが、それを「すけっと」と名付けたのは、なかなかチャーミングだなあと思う。

 助っ人には二つある。質的助っ人と量的助っ人。どちらにせよそれは「レギュラーメンバーでない人が行う」という点が共通している。ドラゴンボールでいえば主役はいうまでもなく悟空だが、ピッコロやクリリンや天津飯が助っ人かといえば決してそんなことはない。彼らは仲間だ。レギュラーメンバーだ。じゃあ、助っ人は誰か。ヤジロベーである。そういえば「助太刀」という言葉もあるね。ヤジロベーが日本刀使いだったというのも、まさにその助太刀ポジションをを体現しているのかもしれない。大猿の尾を斬り落とす男。クリリンと同じ声。

 ドラゴンボールの世界は現実離れしたものだけれど(ウーロンが普通に喋るし)、僕らいわゆる普通の一般人が生活するところの世界における仕事、というやつもこれ、多くが助っ人であるのではないかと思ったのである。人間社会というのは分業制で発展してきたわけで、Aさんが本来やるべきところをBさんがやる、Bさんが本来やるべきところをCさんがやる、というようにして、さらにそこに貨幣という価値交換に便利なツールを発明しちゃったぐらいにして、超ざっくりいえばそういうようにして現在に至る、のだとすれば、僕らはみんな助っ人で、同時に助っ人されていることになる。

 いやいやちょっと待てよ、助っ人って「レギュラーメンバーじゃない」ってことだろ? じゃあ、助っ人じゃないじゃんかよ。世の中のいろんな仕事、たとえば食べ物をつくったり、服をつくったり、家をつくったり。これってもう僕らにとって必要不可欠な「レギュラー」じゃんかよ。という考え方。できる。可能である。線引きなんて結局のところ恣意的なものでしかないんである。でも。だからこそ。「すべての仕事は助っ人である」という僕が思いつきで放っただけの野良文章が、なんの根拠もない断言が、風通しよく生きるための手がかりになったりはしないだろうか。人はひとりじゃ生きていけないっていうけれど、その気になりゃあ生きていけちゃうんじゃないのっていう。それぐらいでいいんじゃねえのっていう。

 もし僕が誰かの助っ人になれているのだとしたら、それはそれで大きな喜びではあるのだけれど。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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