#61 給料日

2014.11.06

 ときどき食べに行く札幌ローカルチェーン餃子&カレー店、すなわち「みよしの」にアルバイト募集の貼り紙があって、そこでは「給料日は月に三回」ということがアピールされていた。あまり聞いたことがない仕組みだったので、なるほど、従業員に対してそのようなメリットの生み出しかたもあるのだな、と新鮮だった。

 僕が学生時代に経験したアルバイト先では、給料は時給計算で、給料日は月に一回だった。もっといえば、子どもの頃に親からお小遣いとして小銭をもらうのも月に一回だった。なので「収入は月イチでやってくる」という感覚は、ずーっと変わらないままに大人になった。

 どうして給料日は月に一度というのがほとんどなんだろう。家賃をはじめとする生活費は月ごとの支払いになっているものが多いからというのもあるだろうけれど、だから給料日が月イチなのか、給料日が月イチだから世の中の支払いがそうなっているのか、どっちが先かはわからない。まあ、なんとなくそのへんが管理しやすいっていうか、気持ちいいってことなのかもしれない。以前、年俸制の人に会うことがあったけど、その人は年俸を十二分割して毎月銀行振込してもらっているということだった。

 けれど、労働の対価として賃金が支払われるという関係性をシンプルに考えたとき、そのタイムラグはできるだけ短いほうが労働者にとってはいい。僕は経験したことがないが、当日の日給を即現金払いする形態、いわゆる「とっぱらい」が理想に近い。給料の未払い・とりっぱぐれがないし、すぐにお金がほしいという人はたくさんいる。給料日が月三回というみよしのスタイルもそのようなニーズに応えるものだろう。僕も新社会人になったばかりのときは、給料日より家賃の支払い日が先に来てしまうことがあって、かといって貯金もなくて、めっぽう困ったものだ。

 給料はできるだけ早くもらえたほうがいい。でも、企業の側からすれば賃金を支払う回数が増えればそのぶん手間も増えてしまうことになる。手間がかかるということはコストがかかる。そのコストは何に影響する? と考えれば、一概にいいことだとはいえなさそうだ。それに、当該の労働が企業側にとって即売り上げを生むような類のものかどうかはケースバイケースである。まったく「お金の出入りのタイムラグ」が生み出す悲劇のなんと数多く、そして恐ろしいことよ……。

 ま、どのような頻度かはさておき、給料日はうれしい。初々しいフレッシャーであれば労働の対価が支払われることそれ自体のうれしさもあるだろうし、もちろんそれによって潤う財布に対してのうれしさはひとしおだ。給料日の後は盛り場が賑わう。札幌であればすすきのが賑わう。至極当然の流れであろう。みんながみんなリアルに月々カツカツでやってるかどうかは別にして、きっと「給料日なんだからパーッといこうぜ」的な、一種の祝祭的な意味合いなんだろうなあと思う。

 給料日が金曜日と重なったとき、その特別な組み合わせによって祝祭感はさらに増す。ただし冷静に考えてみれば、給料日が金曜日というのはそんなに特別ではない。なぜなら給料日が土曜日曜祝日の場合、良心的(常識的?)な会社であれば給料日は前倒しとなるから、給料日が金曜日になる確率は七分の一ではなく、七分の三となる。実に半分近い確率である。けれども、そんな冷静さを差し挟むことなんか給料日の金曜日にはふさわしくないのだろう。いいんじゃないの、パーッといけば。二十五日の金曜日、仕事帰りにしらふで乗り込む終電地下鉄の酒臭さよ。その悲しみよ。「はなきんデータランド」というフレーズが僕の脳裏に浮かんで消える。番組の内容はまったく思い出せないが、問題ない。

 今、給料は銀行振込が当たり前だろうから(僕もそうだ)、給料日にすぐさま財布の中のキャッシュが増えるというわけではない。その日のうちにATMへ行くことができなければキャッシュは手に入らないし、給料日のATMなんて激混みである。そもそも、配偶者にお小遣いを厳しく管理されているという人々も多かろう。給料日の財布の中なんて、そんなもんだ。みんなカリソメのパーッと行こうぜなのだ。そう思うと終電の酔客たちも愛すべき存在に見えてこないだろうか。いや、うーん。

 僕が小学校に上がる前のこと。父の勤務先はまだ月々の給料が銀行振込じゃなくて現金手渡しだった。父は曜日に関係ない職業の人だったから、仕事が休みの日が給料日ということもときどきあって、そんなときは父と一緒に、おててつないで、父の勤務先まで給料を受け取りに歩いて行ったものだ。あのときの父の顔や、話してくれたこと。きっと、プリミティブなうれしさに溢れていたことだろうと思う。僕も大人になったからわかる。ぜったいそうである。なのに、ぜんぜん記憶に残っていないのが悔しい。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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