#59 雷

2014.10.23

 雷が怖い。という大人のひとがまあまあいるということにびっくりしている。

 よく思い出すのは、飛行機事故で死亡する確率は歩道で車にひかれて死ぬ確率より低いという話。それが真実かどうかは調べたことがないけれど、わりといろんな局面で僕の心の支えになっていて。それと同じようにたぶんふつうに屋外を歩いていて自分に雷が落ちるというのはものすごく低確率だろうし、もっといえば建物の中にさえいれば、まず間違いなく感電のおそれはないはずで、それを怖がる理由が僕にはわからないのである。

 で、僕はたぶん根本的なところの理解がずれているのだということに思い至る。つまり、雷が怖いという人はなにも「雷が自分に落ちてきたらどうしよう」と思って震えているわけではないのだ。かといってさすがに「おへそをとられたらどうしよう」と怖がっているはずはないだろう。彼女たち、まあたいてい女性なのですけれど、彼女たちはきっと「雷そのものがダイレクトに怖い」のだろうと想像する次第である。

 たしかに地獄の底から響いてくるかのような大音量。「轟く。」ってこういうことなんだなあ、というあの空気の震え。遠くカタカナで「ゴロゴロゴロ……」なんてときはまだよくて、場合によってはものすごく近くで「ばりばりばりばり!」みたいなときもあって、ひぇっとなる。

 屋内にいれば「光ったな」と感じられる程度の光だが、屋外にいるときはその迫力もひとしおだ。向いている方角や遮蔽物によっては漠然と「あ、光ったな」というだけだったりもすが、この前、夜に坂道を上っていて遭遇した雷は、遠く目線の先の山の稜線をバッチリと明るく照らし上げて、夜空の下でそれはそれは神秘的な、だけどたしかにあれは、ちょっと怖かった。

 雷が怖いというのは落雷を恐れているのでも「うわあ、自然の畏怖〜」と思っているわけでもなくて、やっぱり「雷そのものがダイレクトに怖い」のだ。おそらく本能的に、心と体がそのように反応してしまうのだ。そして、生物の危機管理としてはまったくもってそっちのほうが正しいのである。さも理性的なふるまいで「僕に落ちることなんてありえないんだから大丈夫だよフフン」とかうそぶいているやつのほうが危ない。僕だ。ごめんなさい。でも、怖くないんだもの。

 もちろん雷に対してリアルに警戒しなければならない人々はたくさんいるだろう。職業柄、お外にいらっしゃる人などはきっと特にそうだ。以前、どこかでサッカーの試合中に雷が選手に落ちてしまったこともあったよね。あれ以来、雨でも試合は続けるけれど雷のときは中断すると聞いた気がする。広くて高いもののない空間であるから、リスクも高いのだろう。

 いっぽう、もっぱら屋内にいてパソコンで仕事を行う身としては、僕の体に落雷する危険性というのはほぼ無視していいレベルのはずなのだけれど、別の意味で注意しなければならないのはパソコンだ。仮に瞬間的にでも停電されると、バッテリーを積んでいないデスクトップパソコンは電源が切れてしまう。保存していないファイルがあれば当然、作業中の内容は破棄されてしまうし、最悪の場合はデータの破損、パソコンの破損ということもありえるだろう。弊社に非常用電源なんて高等なものはございませんから、保存、保存、保存の繰り返ししかないのであります。

 さらにさらに最悪の場合、建物に雷が落ちてしまったときには、そのとき通電しているパソコン自体がぶっ飛んでしまう可能性もある。こればっかりは手持ちの通電していないメディアにバックアップしておくか、地理的に遠く離れたどこかのサーバ、つまりはクラウドにバックアップを取っておくか、ぐらいしか安全といえる策はないので、そういうことができないときにはただ祈るのみ。そこは、祈るのみである。ダメならしゃーない。それも自然の驚異のひとつのかたちである。

 雷は怖い。けれど、同時に、かっこいい。まず名前がかっこいい。雷。雷電。稲妻。英語でも「サンダーボルト」だよ。ドイツ語なら「ブリッツ」だよ。綴りなんかBritzだぜ。かっこよすぎるだろう。子どもの頃はなんでもかんでも「サンダー」って付けばかっこいい名前だと思っていたし、実際にそんなミニ四駆もあった。サンダードラゴンだぜ。かっこいい!

 あと、稲光の形もギザギザしててかっこいい。これまた子どもの頃は、あのギザギザばっかり自由帳に描いていた気がする。「サンダー!」って感じがするし、もし当時「ブリッツ」を知っていたら僕は、ずっとブリッツブリッツ言いながらあのギザギザを描きまくっていただろう。

 高校の修学旅行、大雨洪水警報の京都。ホテルに向かうバスの中から見た、雷を背に浮かび上がる二条城。あれ、すっげえかっこよかったなあ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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