#48 校歌

2014.08.07

 初めての経験をした。テレビで母校の校歌が歌われるという経験だ。

 今年の夏、母校の高校の硬式野球部が稀に見る快進撃で地区予選を勝ち上がった。地方の普通の公立の進学校が、同地区の私立の強豪校をコールドで破るという波乱を起こしてしまった。そして出場した南北海道大会でも初戦、二戦目とトーナメントを順調に勝ち上がり、迎えた実に五十年以上ぶりという準決勝、九回表に四点差を逆転された母校は、九回裏二死走者なしから劇的なサヨナラ勝ちをおさめてしまったのである。

 野球部OBにはたいへん申し訳ないが、正直なところ本当に、まったく予想していないことだった。母校の野球部が甲子園に届くかもしれない、という位置につけるということは、自分が生徒だった頃から卒業してずいぶん経つ今年まで、一度たりとも想像したことがなかった。公立の進学校が野球でも強豪という例は、この北海道でも、なくはない。けれど、けれどもまさか、そんなことないべ、と思っていた。

 準決勝の日は平日で仕事中だったが、昼飯時に職場のテレビをつけて、ちょうど九回表の途中から観戦することができた。ああ、負けてしまうのかなという寂しさと、もしかしてという期待、期待しすぎてはいけないという自制、そして歓喜の瞬間と。声を上げたいのをこらえて、全身の身震いを静かに受け止めた。

 そして校歌。

 僕の記憶しているよりもやや高めのキーの女声が流れ、それにあわせて自然と僕の唇が動く。甲子園の全国放送とは違って歌詞は画面に表示されず、それでも、少なくとも一番は、歌えた。整列する野球部員たち。スタンドで肩を組んで歌う高校生たち。テレビ画面を通して彼らを見ながら、ああ、そうか、甲子園じゃなくとも、予選でも校歌って歌うんだな(もしかして準決勝だから?)と思いながら、人のあまりいない閑散とした昼飯時の職場で、はからずもいろいろな感慨が僕のなかでぐるぐるした。

 高校野球で校歌が歌われるシーンというのは何度もテレビで見てきたけれど、これからはちょっと見方が変わってしまいそうだなあと思った。今年の甲子園で母校の校歌が聞けないのは残念だけど、本当によく頑張ったなあ。

 しかしそもそも、スタンドで肩を組んで歌っていた後輩たちよ。君ら、ふだんの全校集会とかでは絶対に歌ってないだろう。学校や世代によるのかもしれないけれど、すくなくとも僕の中学・高校時代は、小学校と違って、全校集会とかで校歌を歌う生徒はほとんどいなかった。ピアノの伴奏が流れて、中学時代は音楽の先生だけが、高校では合唱部(「音楽部」という名だった)の生徒だけが歌う校歌。朗々と堂々と校歌を歌うクラスメイトの音楽部部長は、なかなか気持ちよいものだったけれど。まあ、でも、仮にふだんは歌っていなくても。あんな劇的なサヨナラ勝ちの後じゃ、肩も組んじゃうよな。歌っちゃうよな。わかるよ。「サライ」は歌っちゃうもんな。わかるよ。

 ところで、なんで校歌っていうものがあるのか、はじめて校歌をつくったのはどこなのか。歌にはきっと、歴史学的あるいは文化人類学的に見ても古来よりいろんな意味合いがあると思うんだけど、社歌のない会社はいっぱいあるけど校歌のない学校って聞いたことがない。もちろん僕も小中高大と校歌があったし、大学は校歌以外に寮歌ってのが何曲もあって、校歌よりもメジャーな寮歌すらあって、寮生でもないのにおぼえさせられたものである。ただ、時系列的には最新の記憶であるはずの大学の校歌は既に記憶が薄く、小中高の校歌はまだわりと歌えるのである。歌詞はところどころ若干あやしいが、基本歌える。

 かつては、たとえば流行りのミュージシャンが母校の校歌をつくったとかいう話を聞くと、ああ、うらやましいなあ、お洒落だなあ、と思ったものであるが、まあ、それはそれで楽しいんだと思うけど、今では特にうらやましいなとは感じなくなった。そのような校歌がどれだけポップなものになっているのかは知らないのでなんともいえないが、校歌といえばやっぱり七五調や五七調、あるいは七七で、多少は古くさい言い回しなんかもあったぐらいにして、そのくらいがいいんでないのと思うからである。言ってることがじじくさくて自分でもびっくりですけど。というのも、校歌の機能を考えたときに、やっぱり「ずーっと変わらない」ってことが大事なんじゃないかなあと思うからである。

 校歌は、実際に通っている六年間や三年間や四年間よりも、むしろ卒業した後のためにある歌なんじゃないか。同級生どうし、あるいは歳の離れた同窓どうしをつなぐ、ひとつの歌。みんなたいてい憶えていて、母校の周辺の地理や風土が歌詞に織り込まれた歌。仮に母校が廃校になっても、卒業生をつなぎ続ける歌。

 僕と中学が同じ人は、校歌の二番の、妙に陽気な転調で、たぶん一緒に笑えるはず。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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