#46 ビール

2014.07.24

 夏、札幌の大通公園に姿を現すビアガーデンは日本最大級なのだという。その座席数、一万席以上。札幌市民として誇れるものランキングのかなり上位に僕の中では位置している。はっきりいって最高である。大通公園近くの会社に勤めていたときは、仕事終わりに同僚や友人と、ふらりと訪れたものである。すげー混んでるけど、楽しい。気持ちいい。今では職場が少し離れてしまったし、勤務時間もすっかり遅くなってしまって、なかなか気軽には行けないのが寂しい。この時期は市内各所にビアガーデンができるから、そちらもまたよし。

 お酒は何を飲むんですか、なんていう問いは、今日は暑いですねって言ってるのとほとんど変わらない、大した意味のない大人の社交辞令だけれど、僕としては真面目に向き合いたい問いであるし、聞きたいことでもある。お酒が好きだからである。決して詳しくはないし、味覚にも自信はないけれど、お酒は大好きだからである。お酒が好きです。僕はお酒が好きです。

 で、まあ、そのときにもよるんだけど、たいてい「ビールですね」と答える。ビールを飲みながら。飲み会の場で、たいていは乾杯は大多数がビールで、その後、ちょいちょい他のお酒に変える人たちが出てくる前半戦の後半あたり、僕は相変わらずビールを飲みながら「ビールが大好きなんです」と言う。ビール以外も飲むし、好きだけれど、ビールばっかり飲んでいるのも好きだ。特に家の外で飲む、サーバーから注がれたビールは。

 ビールを好きだと自覚し、自称するようになったのは、飲酒を始めてすぐではなくて、ちょっと経ってからだったと思う。それ以前は日本酒やウィスキーが好きだった(もちろん今も好きだけれど)。二十代の前半、大学のゼミの打ち上げかなんかで居酒屋で乾杯のビールを飲んで「うめえー!」って心底思った、その瞬間の光景をなんとなく憶えている。それ以前も乾杯はビール(発泡酒)だったし、わざと若干おっさんくさい声で「うめえー!」なんつったりはしていたのだ。ただ、そのときは、心底そう思えた。わけもわからずカタチだけを真似て気取っていたところに、その意味だとかマインドだとかが追いついてビタッとはまったような、そんな瞬間だったんだと思う。

 ビール、好きだ。確実に好きだ。だが、ビール、うまいだろうか。本当に正直なところをいえば、僕はよくわかっていないのかもしれない。

 ビールに限らず、なにを「うまい」と感じるかは経年変化するものだと思う。カツ丼やカレーを食べたときに感じる「うまい」と、ししとうを焼いて塩ふったようなやつを食べたときに感じる「うまい」は、違うものだ。同じようにまた、ビールについて感じている「うまい」も違うものだ。「うまい」の意味がずんずん拡大しているのだ。僕は今のところ、子どもの頃から「うまい」と感じるものは相変わらずうまいし、そうでないものたちのことも「うまい」と感じるようになってきている。セロリとか。幸福なことである。

 そのことを踏まえた上で、である。「ビールの味、うまいか?」ってきかれると、僕は自信をもってイエスといえない。そもそも自身の味覚に自信がないというのもあるかもしれないが、すくなくとも僕の感じうる味の範囲において。じゃあ「喉ごしなのか?」っていうとそれもまたアレで、なぜならやっぱり渇いた喉を純粋に潤すんなら、ポカリか、あるいは麦茶じゃないかと思うからである。粉で作って家から持ってきたポカリをチューチュー吸うた蒸し暑い更衣室。少年野球のベンチにセットされたキンキンの麦茶。あれに勝る喉ごしの快楽があるだろうか。

 こうして書きながら、やっぱり思う。僕は、ビールを、フィジカルだけではなく、頭で飲んでいる。ビールが好き、ビールがうまいというのは後天的に得た味覚であり、味覚であるのかさえも疑わしい。僕は、ビールを好きだと思おうとしてビールを飲み、そのままビールが好きになってしまった。

 たとえば金曜の夜、仕事帰りの夜中に居酒屋で頼む「生」。たとえば休日の昼間から開けちゃう缶ビール。屋外の屋台で買っちゃうプラコップのビールは、スイッチである。つまりは「今日はもう働かないかんね! かんねー!」という、対外的かつ自分自身に向けたスイッチ。僕はこの、スイッチとしてのビールのことを、とても愛している。

 仕事でドイツビールのことを調べたりすることがあったのもあって、ちょいちょい瓶の輸入ビールを買わせてもらって、飲んでいる。ビールもいろんな種類、いろんな味があって面白い。ワインやウィスキーと違って、どんなに高いっつっても買えない値段じゃないのがいい。ここ何年かはバスペールエールがとても好きです。そんなに高くないし、うまいと思う。

 あー、なんでこんな文章を書いてしまったんだろう。すっげー飲みたい。ビールが好きです。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com