#45 おすすめ

2014.07.17

 札幌で、ときどき飲みに行く店があって、近年よく見るようになったバルという形態で、これまた近年よく見るようになったアヒージョがある。たいへん好きである。油で煮るってどんな鬼畜の所業だろうか。うまいに決まっている。オリーブオイルとニンニクで煮られる様々な具材たち。オリーブオイルに染み出る様々な具材たちの味。ハードなパンを浸しては食い、浸しては食い、パンおかわり。ビールもおかわり。そういう地獄。いや、天国。

 で、そのバルのメニューを開くとアヒージョが三種類ある。エビのアヒージョ〈おすすめ〉、キノコのアヒージョ〈おすすめ〉、砂肝のアヒージョ。この三つだ。どれにしようか、どれも美味しそうで迷うのだが、ちょいちょい、ちょい待って。待ってほしい。ここは配慮してほしい。いうまでもなく砂肝の心情にである。

 ふつう、おすすめとは、数ある中でも特にすすめたいものに付与する称号である。十のうちのせいぜい一つか二つ、もちろんケースバイケースではあるが、確実に言えるのは、おすすめが多数派になってしまってはいけない、ということである。それはむしろ「おすすめと書かれていないもの」を「おすすめできないもの」として際立たせてしまうからである。「全部がおすすめですよ」という気持ちかもしれない。それはわかる。だからって全部に〈おすすめ〉マークがつくであろうか。そんなことをすれば白けるのは目に見えているだろう。そんなときは〈おすすめ〉とは付記しない。何も言わない。そういうもんだろう。

 またあるとき、新聞の折込チラシに目を落としたら、スーパーマーケットの惣菜の紹介欄に「めちゃ旨フライドチキン」と「めちゃ旨でか塩ザンギ」と「手造りジャンボチキンカツ」が並んでおって、朝から遠い目をしたよね。ジャンボチキンカツの心情。または手造りした人の心情。

 これらを見ていて記憶の片隅から呼び起こされたのは、中学時代の音楽教諭が、教科書の重要箇所、たとえば作曲家のプロフィールに線を引かせるときのことだ。文章を読み上げながら線を引かせる彼女の指示はいつも決まって、結局、助詞を除くほぼ全てなのである。だったら、文章として丸暗記するほうがまだ簡単だったろうに。蛍光イエローに染まる滝廉太郎の記述が目に眩しい。

 広告をつくっていると、広告主さまの「おすすめ」の気持ちとのせめぎ合いだ。全部言いたい。全部おすすめしたい。そりゃそうだろうけれど、それを全部言っちゃったら結局何が言いたかったんだかぼやけちゃいますよ、みたいな。そこをご納得いただくためのコミュニケーションって本当に大事だ。できてないけど。そういや広告じゃないけど、ライターの石原たきびさんがとあるインタビューに答えて「できるだけ『!』に頼らないように心がけている。『!』を使わなくても『!』の効果が出るような文章を書きたい」みたいなことを仰っていて、とても感銘を受けたので僕も目指したい。

 さて、しかしながら翻って、受け手の立場にあるとき僕らは、ついついおすすめを聞きたがってしまうのもまた事実だ。情報を前にして、そのあまりの数の多さに、自分好みの品を選び取る判断が困難なとき。情報がフラット過ぎて、とっかかりが見いだせないとき。あるいは、単純にめんどくさいとき。いろんなシチュエーションがあるだろう。たとえば誰かを伴って飲食店を訪れたときなどであれば、責任逃れといった意味合いもあるかもしれない。つまり自分が選んだのではなくお店側がすすめてきたのだ(だから口に合わなかったとしても自分のせいではないです)的な。かっこわるいけど。

 これもやっぱり、広告をつくる仕事をしていると、よくある。たとえば三案ほど方向性の違うものをつくって提案する。たいがい「おすすめは?」と言われる。だったら「これは」と思う一案だけをしっかりつくって提案するのが正しいとする考えもあるし僕もそれが正論だと思うけど、なかなかそうもいかないわけで、ただ、単にお客様の好みだよねー、っていうだけじゃないように、「こういう場合だったら、この案」というような答えかたができるように、とは思っている。

 まあ、おすすめとは必ずしも「享受者にとって良い」ということではなくて、おすすめする側の事情がふんだんに盛り込まれているわけで、んなこたーみんなわかってますよね。

 全ての席にセットされるメニューに印刷されているような、のっぺらぼうの「おすすめ」なんかどうでもいい。僕を見て、見たうえでの「おすすめ」だったら大歓迎だ。メニューでいえば百歩譲って「辛いものが好きな方にはおすすめ」なら、まだいいのだけれど。おすすめするならそうありたいし、されるときにも怠けないようにしたいものである。どうでもいいこと以外は。

 砂肝のアヒージョは歯ごたえコリコリでビールとよく合って、とても美味しかったです。


face

鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
Shikalog / Twitter / Facebook / mail: suzuki at mark suzukitext dot com