#43 水筒

2014.07.03

 500mlペットボトルのお茶や飲料が一般的になった時期をかなりはっきりと憶えていて、なぜならそれがちょうど僕が中学を卒業して高校に入学するぐらいのタイミングで、僕は中学までは給食があったけど高校からは弁当で、そのときの飲料をどうしようか、毎日買うのは経済的ではないし、かといって小学生の遠足で持っていたようなでっかい水筒を毎日持って通学するのはいやだなあ、と思っていたのである。そこへきて、500mlペットボトルの登場。瞬く間の席巻。僕と母の見解は一致した。「これ、いいじゃん」

 てなわけで、僕の高校時代の水筒は500mlのペットボトルになった。毎朝、母が弁当をこさえてくれるのと一緒に番茶を淹れてくれて、少し冷ましてからペットボトルに入れてくれていた。夏は冷蔵庫でつくられていた水出しの麦茶をそのまま入れていた。保温性は皆無だけれど、口をつけてそのまま飲めるのと、飲み終わった後は軽くてよかった。ああ、僕の高校進学に、ペットボトルの進化が間に合ってよかったと思ったものである。

 メーカーは推奨していない使い方なのであくまで自己責任であるが、口の小さなペットボトルの内部を洗う用のグッズも販売されているぐらいで、わりと一般的な行為なのかなと思う。ペットボトルはときどき新しいのに変えていた。どれほどのスパンだったか、何をきっかけに変えていたのかは忘れてしまったけれど、たぶん、なんとなくだ。

 基本的には、弁当やおにぎりを自宅から持参するのであれば飲料もセットという感覚だ。だから、高校を卒業してから結婚するまでの、弁当のない生活を送っていたころには水筒とも疎遠になって、飲み物は外で買うか、あるいは学食や職場の給湯室でお茶などを飲んでいた。そして偶然にもその間、世の中は空前の水筒ブーム。いわゆる「マイボトル」ブームが到来したのである。結婚して、妻に毎日昼食をつくってもらうようになって訪れた水筒売場には、僕が子どもの頃に持っていたようなキャラクターの入ったプラスチック水筒や、やたら太くて重たい魔法瓶とかではなくて、スタイリッスなオーエルさんが持つようなスマーツでキャラフルでシャレオツなのがわんさかであった。すっかり水筒万歳の時代になっていた。高校時代の僕に「水筒ダサくなくなるよ」って教えてあげたい。信じないだろうけど。

 水筒がダサくなくて当たり前の存在になるということ、そして通勤などに持ち歩きやすい商品が増えて選びやすくなることは、非常に喜ばしいことであった。当然ながらエコの文脈があるわけだけれど、僕としては何よりも経済的な理由がとにかく大きい。毎日の百数十円の積み重ねって、かなり大きいと思うのだ。いや、そりゃね、じゃあ外で買わないからってその浮いたお金をちゃんと貯金できてんのかよお前っていうのはありますよ。ありますけどさ、それはさておき。

 というモチベーションがベースなのもあって「空の水筒だけ持ち歩いて、中身は外で買って入れる」というスタイルにはどうもなじめないのである。コーヒーのマイタンブラーしかり、給茶的なキャンペーンしかり。だってお金かかっちゃうんじゃん。お金かかっちゃうんなら僕はできるだけ荷物を減らしたいし、荷物になるなら家から入れていく。まあ、家から持参した中身を飲みきって空になった水筒を外出先で使う、というのであればアリかもしれない。やったことないけど。

 外では買いにくいような自分の飲みたいもの、こだわりのオリジナルドリンクを入れていつでも飲めるようにできる、というのも水筒の魅力だ。もしも生活に時間的な余裕ができたら、毎朝自分で落としたコーヒーを水筒に入れて持ち歩く、なんていうのもいいかもしれない。違いのわかる男になれるかもしれない。

 僕の運動会を見に来る父の、大げさな魔法瓶に入っていたウィスキーの水割りを思い出す。このまえ甥っ子の運動会に行ったら「禁煙」はともかく「禁酒」って貼り紙があったよ。そーですよね。ですよねー。

 さて、売場でいちばん安かったPB商品を買って最近まで何年も使っていたけれど、パッキンが古くなってしまったのでサーモスの水筒を新調した。飲みやすく、かつ簡単に分解できて洗いやすくて重宝している。水筒自体はPB商品より高かったけど、パッキンがだめになっても新しくパッキンだけ買えるのがいい。これ、もう半永久的に使えるんじゃないだろうか。おお、急に愛着が湧いてきたぞ、サーモスめ。

 最近は、職場に持っていった水筒の茶を早々に飲み干してしまうので、その後は職場の冷蔵庫でペットボトルに入れて冷やしてある水道水を水筒に移し替えて飲んでいる。ガブ飲みしている。びんぼくさいかもしれない。けどね、うまいよ、冷たい水。この夏のイチオシドリンク、水。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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