昔々、中学の同級生に当時聞いた話。彼のお姉ちゃんが、シャツが半分入って、半分出てる中途半端な状態だったんだって。それを見たお父さんが「シャツが出てるぞ」って指摘してあげたと。それに対してお姉ちゃん「シャツが入ってる、って言ってよ」と答えましたとさ。

 いまにして思えば、トレンド的にも過渡期だったのかもしれない。僕よりもっとお兄さんお姉さんが若者だった時代の服装を振り返ると、肩がボーンと張り出したビッグシルエットで、その中に着ているシャツはズボンにインであるイメージ。僕のまわりにはいなかったけど、なんかだいたいそんなイメージ。

 一方で僕らが子どもから若者になる、なりかける中学生ぐらいの頃って、ストリート、ヒップホップ、ダヨネー、みたいな。地域差もあると思うけど、僕のインザプレイストゥービーではそんな感じ。当時雑誌でいえば『Boon』とか『Cool』とかには、バッシュとか載りまくってたよ。スコッティ・ピッペンモデルのとか。そして、ナイキエアマックス95。そんな時代。中に着ているシャツは、TだろうがYだろうが、当然ズボンからアウトだ。シャツは出すのだ。スチャダラパーのボーズが、ほぼ日のインタビューで「おなかが弱いからほんとはTシャツ出しておなかを冷やしたくないんだけど、ラッパーなのでそういうわけにもいかなかった」みたいな述懐をしていた。そこまでの犠牲を払ってでも、シャツは出さなければならなかったのだ。

 シャツをズボンに入れずに出す。シャツが一番外側の服である場合には、それ以上のことは特に何も起こらない。ただ、シャツが中の場合。シャツの上に何らかの服をオンする場合には、お互いの丈の長さのバランスを考慮する必要が出てくる。その際も、上着のほうが十分に丈が長ければ事は平穏無事である。議論が紛糾するのはつまり、両者の丈の長さが拮抗している、あるいは中のシャツのほうが長いケースである。

 中のシャツを、上着の裾から出すのか。そもそも出していいのか。出すとすればどれほどの長さか。そのときの色は。かたちは。

 シャツの裾が学ランの上着からすこし出ているというのは、中学生の僕らにとってちょっとした不良的な格好良さだった。そんなに多くはなかったけれど、ぐっと短い丈の学ランを着ている同級生もいた。いわゆる短ラン、あるいは「やや短め」の中ランというのもあったっけ。どちらにしても校則違反の改造制服というやつだ。そもそも短ランだろうが校則通りだろうが、学ランの中のシャツをズボンから出すこと自体がうちの中学では禁止だったはずだ。まあ、つまりはルールから外れるという意味での格好良さではあるんだけれど、そこに服装のトレンド的なものもあいまって、そんなことになったのだろうと想像する次第である。ネルシャツやTシャツをズボンから出して、短ラン羽織って、前開けて、それがかっちょいいみたいな。僕のお兄さん世代の学生服スタイルとはやっぱ違うものね。だいたいのイメージだけど。

 スカジャンやMA-1も流行った。どちらも短い丈の上着なわけで、当然ながらインナーが出る。みんな出す。当然のように出す。喜々として出す。そこで中のシャツをズボンにインして見えないようにする、ようなことをしていた者はいなかった。なんなら、学ランの上着の裾が出てた。その下からさらにシャツの裾が出てた……かどうかは記憶にない。

 このような着こなし、当時の僕はまったく経験がない。短ランもスカジャンもMA-1も持ってなかったし。裾の短い上着、持ってなかったべか? と、考えてみたら、一枚あった。Gジャンあった。ブルーハウスで買ったGジャン着てたわ。白いGジャン。まったく経験がないとか嘘。出してたわ、裾。着てました。出してました。ああよかった、中のシャツ出せてて。

 あれから20年ほどが経つわけで、ファッションのトレンドも変わり変わって、逆に90年代がちょっときちゃってるっぽい今日この頃。基本的に「中のシャツは出す派」として20年あまりを生きてきた僕は、いまだに中のシャツの丈と上着の丈の長さの正解がよくわからないまま現在に至っている。朝、シャワーを浴びながら頭の中でなんとなく想定していた重ね着が、実際に着てみたら丈の長さの問題で没になるこも少なくない。

 特に、出過ぎが恥ずかしい。おしゃれな人はその持ち前のセンスでもって、出すときはガバッと出しちゃったりするんでしょうけどさ、僕にはその辺のあんばいがよくわからんっちゅうか自信がないっちゅうか、ちょっとチラ見えぐらいを模索しては、これでいいのかと自問して、結局わけわからなくなって放棄、がいつものパターンなのである。「敢えて」に対する照れは、センスへの自信のなさと同じ意味だ。

 冬の寒い日だけは中のシャツをズボンに入れる。さすがに吹雪はつらいのである。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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