#39 選手

2014.06.05

 運動会シーズンである。北海道の話である。五月の連休を過ぎ六月にかけて、雪捨て場の真っ黒な雪もようやく消えてきて、暑くなる前の過ごしやすい季節。秋開催じゃないのは梅雨がない、あるいは秋だと寒すぎる北海道ならではなのかと思っていたが、最近は本州も春開催が多いんだとか。へー。

 玉入れ、ダンス、組体操など色々な競技が運動会にはあるが、花形といえばリレーであろう。リレーと他の競技を画すもの、リレーが花形である所以は、やはりそれが全員参加ではなく、クラスから数名、選抜された足の速い児童たちだけが参加する競技だという点だ。子どもにとって、特に男子にとって、足が速いというのはもうそれだけであらゆるビハインドをぶっ飛ばすかっちょよさがある。リレーの選手になるということは、たいへん名誉で嬉しいことであった。

 であった。などと偉そうにいうのには理由があって、僕も昔はリレーの選手だったからである。体型はずーっと「やや肥満」を維持してきた僕であるが、なぜだか足は速かった。小学一年生、クラス一位。文句なしのリレーの選手。二年生、一位は逃す。でもリレーの選手。三年生、当落線上ギリギリ。なんとかリレーの選手。四年生、落選。以下略。僕の短距離走者としてのピークは六歳の初夏だった。早すぎた全盛期。

 リレーの選手というのは、このように「選ばれた」人だ。リレー競技への出場を自ら選ぶのではなく、その走力において「だれかから選ばれる」のである。運動会において全員参加競技の参加者を「選手」とは呼ばない。同様に、野球選手、サッカー選手なんていうのも、数多くの人々の中から選ばれたというニュアンスを含んでいる。「プロ」ってつけるといっそう際立つ。選ばれ感の最たるところでは、オリンピック選手あたりか。

 その競技、勝手にやっているだけでは選手ではないのだ。趣味で野球をやっている人のことを「野球選手」とはいわない。ただ、それはプロじゃないという意味ではなくて、たとえそれが草野球チームだろうと「彼はチームの選手である」といえるだろう。また、ただ走るのが好きな人を「マラソン選手」とはいわないが、ある競技会に参加するときには「いち選手である」といえるかもしれない。むりやり整理するとすれば、プロあるいはそれに準ずる(実業団などに所属し、もっぱら競技に専念して生きている)人は社会的な肩書きとして「選手といえ」て、趣味的な競技者はある限定的なシーンにおいて「選手になる」といえるだろうか。

 これまで「ある競技を行う者」ぐらいのつもりで使っていた選手という言葉だが、こうして考えてみるとどうやら違うようだ。英語だと、例えば野球なら選手はplayerだ。単に「やる人」だ。走る人ならrunnerだし、もうちょっと広い意味の言葉ならathleteでもいいや。そこに「選ばれた」というニュアンスは特に含まれていないよね。ニュートラルに「競技者」を意味するような、ぴたっとはまる言葉が日本語に見当たらない気がする。だから「プレーヤー」って片仮名で言っちゃうのかな。ああ、高校野球に限っていえば「球児」っていうのもあるね。

 よく「やりたくてもやれなかった人たちのために」みたいなセリフがあるだろう。そのぶんも自分が背負ってがんばらなくちゃいけないんだ、的な。これ、とっても「選手的」な物語だなあと思う。このメンタリティって日本独特なものだろうか、それともスポーツ界ならどこでもあるのかな。もちろん選手自身のモチベーションになるんだったら別に構わないんだけど、個人的には「重いなあ」って思ってしまうのだ。

 僕自身は月並みにプロ野球選手を夢見ながら、少年野球ですらスタメンになれずベンチで麦茶でおなかちゃぽちゃぽにしていたような程度の逸材だ。休日のジョギングとキャッチボールが好きな、ただのスポーツ愛好家。もちろん上手くもなんともない。そして、それでいいじゃないかと思う。みんなが笑ってスポーツを楽しめる社会を目指すなら「選手的」物語は邪魔なんじゃないか。みんな横並びの「競技者」でいいじゃないか。

 とか書いといて自分でひっくり返すけど、でもね、一方でやっぱり、選手になるっていうのは、すごく嬉しいことですよ。で、なんで嬉しいかっていえばそれはやっぱり「だれかから選ばれている」ことの嬉しさだよ。そこはやっぱり否定できない、否定したくない。そして、観てる側にも「選手」を観る喜びは、あるんよね。野球センスの塊みたいな大谷翔平の存在の喜びって。

 あー、スポーツっていいな。

 小学二年生の甥っ子が、今年はリレーの選手に選ばれた。叔父として非常に誇らしい気持ちである。堂々のクラス一位である。是非ともモテまくってほしい。足が速かったのにモテなかった叔父の仇をとってほしい。でも、今がピークじゃあかんぞ。それだけはあかん。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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