#38 相互乗入

2014.05.29

 2004年、僕は上京した。職場は目黒。住んだのは目黒駅から電車で10分かからない東急目黒線西小山駅、から徒歩15分のアパート。「ちょっと前まではメカマ線って名前だったんだよな」なんて言われて「へえ」なんつって、なんだそのメカマって響き、ぐらいでよくわかっておらずに。目黒と蒲田ね。

 目黒駅は日本一有名な路線であるJR山手線の、ぐるっと円形の循環線の左下らへんにある。で、その円の外、左に伸びるように東急目黒線っていうのが通っている。さらに円の内側、都営地下鉄三田線と東京メトロ南北線も通っている。いろいろ通っている駅なのである。鉄道マンの息子として生まれ育ちながらも、東京の鉄道の複雑怪奇さにはまっこと戦々恐々の上京である。世界的に見てもかなり複雑だっていうものね。「成熟」って、こういうことなのかね。どうなのかね。

 地下鉄はいいんだ。地下鉄がなんか二社あるのも、まあいい。あれ、営団地下鉄ってなくなったの? あ、東京メトロっていう名前になったのねふむふむなるほどお洒落ですわね。そういえば私鉄というものがあるのも僕は知っているぞ。何度かお芝居を観に行った下北沢には京王線と小田急線っていうのが通ってるんだ! 長らく函館本線一本槍だった僕がここまで理解していただけでも褒めちぎってほしい思いである。

 上京前の就職活動中、入社試験を受けるのに何度も目黒駅を訪れていたのに、よくわからなくて避け続けていたものがある。それが標題の「相互乗入」である。そうごのりいれ、と読む。目黒駅でいえば、東急目黒線と、都営地下鉄三田線および東京メトロ南北線は相互乗入している。さらに東京メトロ南北線と埼玉高速鉄道は相互乗入している。

 たとえば僕は西小山駅で目黒行きの東急目黒線を待っている。ホームに電車が入ってくる。しかしその車両は、必ずしも東急の車両ではないのだ。ときに都営地下鉄、ときに東京メトロ、ときに埼玉高速鉄道の車両なのである。僕は不安を抱きながら車両に乗り込む。電車は数駅を経てあっさりと目黒に着くが、その車両はそこで終点ではない。東急目黒線は目黒が終点であるにもかかわらず、だ。目黒駅以降は都営地下鉄あるいは東京メトロ「として」そのまま運行するのである。乗客は乗りっぱなしで構わない。乗り替えが必要ない。直通運転なのだ。さらにさらに、東京メトロ南北線はその先で埼玉高速鉄道に直通する。僕は西小山駅で目黒駅に行きたいだけなのだ。10分弱の距離だ。なのにホームに入ってくるのは、埼玉高速鉄道の車両で浦和美園行きだったりするのである。

 ずいぶん前の記憶を引っ張り出しながら書いてしまった。つたない説明で申し訳ないが、意味がわかるだろうか。ある車両を、異なる鉄道会社のもの「として、見なす」というような高度な鉄道理解は、決して易しいことではないと思うのだ。なんだそれ、運賃の精算とかどうなっとるんだ、運行中に何かあったときはどこ鉄道会社の責任になるんだ、などなど、浮かぶ疑問は山ほどある。僕は北海道と首都圏以外の鉄道事情をよく知らないのだが、想像するに、日本のかなり大多数のかたにとってはピンとこないのではなかろうか。東京の駅の券売機で切符を買うときは大いに戸惑ったものだ。いまやそんな機会がほとんどないが。

 そう、少なくとも運賃の支払いに関してはまったく便利になったもんで、いまやICカード乗車券一枚あれば、どの鉄道会社の路線に乗っているかなんてノーケアでオッケーになってしまった。2004年はSuicaはあったけどPASMOがまだない時期で、PASMOの前身の磁気カード「パスネット」との二枚使いで、自動改札機にパスネットを通した後にSuicaをタッチ、っていう通りかたをしていたものだったなあ。あれも最初は超不安だった。操作としてトリッキーすぎるもの。シャコッと入れて、ペタンとくっつけて、はじめてピピッと鳴ってゲートが開く。こんなの教えてもらわずにできるかーい! できる・かーい!

 ケータイの乗換案内がある時代で、ほんとうにほんとうに助かった。利器感はんぱなかった。あれ「そのまま乗ってていいよ」って教えてくれるからね。相互乗入のなんたるかがわかっとらんでも、なんとかこんとか。まいにち街のあちこちに電車移動しなければならない仕事だったにもかかわらず、なんとかこんとか。あれがもしなければ僕は東京での社会人生活をもっと早くギブアップしていたかもしれない。まあ、たった一年だったけどさ。

 相互乗入でびっくりしたのは実は「ああ、JRも地下鉄も私鉄も規格がいっしょなんだ」ってところで、札幌の地下鉄は普通の鉄道と違ってゴムタイヤだから、地下鉄ってそういうもんかと思ってたっていうのもある。静かでいいよね、札幌の地下鉄。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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