#37 部室

2014.05.22

 もしも青春というものに場所が必ずセットになるのだとすれば、僕の青春の重要な一部は間違いなく高校の演劇部の部室とともにあった。

 部室。部の部屋。部部屋である。ぶべや。僕はそれまで、中学時代、部室というものを経験したことがなかった。通っていた高校だって、すべての部活動に部室があったわけではなかった。僕の部にはあった。しかも校内、本校舎の中、具体的にいえば二年B組の向かいにあった。いーだろ。

 そもそも「主たる活動場所」とは別にある部屋が「部室」であるように思う。たとえば美術室が主たる活動場所の美術部にとって、美術室は部室とは違う。そもそも授業でも使われる部屋だし。ただし、もしそこに隣接するなどして美術部員専用の用具置き場や、ちょっとしたスペースなどがあるのであれば、それは部室といえるだろう。

 それは、用具置き場の発展であることが多いのではないだろうか。有名リフォームテレビ番組で見たある高校のサッカー部の部室は、部室というか完全に用具置き場、なんなら倉庫と呼んで差し支えないレベルのビフォーを、なんとか用具置き場兼、ちょっとしたミーティングができるよね的なところまでアフターしていた。まあ運動部なら、それも屋外で行う競技であれば、そうなってしまうのも仕方ないだろう。逆に、置くような用具がない部活にとっては、部室は不要となる。

 演劇部の部室もおそらくその起源において、保管しておかなければならないものがたくさん存在したために与えられたのではないだろうか。僕が入部したそのとき既に、先輩から脈々と受け継いできたものたちが大量にあった。大道具に使うための木材や工具、衣装としての衣類あるいは布地、何に使ったんだか雑多な小道具類、戯曲などの書籍、音響に使用したカセットテープ、そして過去の公演のビデオテープ。普通の教室の四分の一ぐらいの広さだったろうか、本当はもっと広かったのかもしれない。在学中の三年間で一度だけ気合いを入れて過去の不良資産を捨てまくったことがあるけれど、それでも次の公演が終わればそれなりにものは増えた。ものであふれかえった部室のなかで、落ち着けるのは昔どこかから拾ってきたのだろうスプリングのいかれたビニールレザーのソファと、木製のスツールがいくつか。

 それでも、僕らは部室にいた。部活の前後にはもちろん、昼休みにも、部活のないテスト期間中の放課後もいた。つい「僕ら」と書いたけど、「僕」だけのときもいっぱいあった。部員の極端に少ない不遇の時代、よく部室を取り上げられなかったなと思う(そのときも「ものがいっぱいある理論」で武装していた気がする)。引退した先輩がふらりと訪れてくれたりもした。

 言うまでもないことであるが、まったくの自然の摂理として、部活に関係ないものも置かれていく、たまっていくのが部室の常である。まして校舎内にある部室、アクセスは抜群なのであるから。教科書や資料集、辞書の類はもちろんのこと、体育のジャージ(これは部活にも使うが)、そして大量のマンガ。特にマンガ。誰が強制したわけでも旗を振ったわけでもないのに、おのずと集まってくるのである。きっと「いちいち貸すために持ってくるの面倒だから置いとくわ!」って感じだったんだろう。あと、みんなで古本屋で少しずつ買い足していったのもあった。僕のときは山田玲司の『Bバージン』。

 もしも青春というものに場所が必要なら、やはり僕の青春の重要な一部は部室にある。そこは「金がかからず」に「いつまでもいられる」場所だった。いわゆる「たまり場」的なもの。子ども的にいえば「秘密基地」のようなもの。ヤンキーマンガの主人公達みたく、来る日も来る日もサ店やファミレスに集うわけにはいかんのだ。そんな金はないし、小樽にそんなにファミレスはないからだ。同好の士と、べつに熱く議論を交わすではなくとも、ゆるゆるとくだらない話をして、だらだらと時間を過ごせる場所。部室は、まさにそれだった。

 今、部室のようなものにとても焦がれている自分に気がつく。高校時代の自分を、いいなーうらやましいなーと思う。いや、もういい大人なんだからサ店やファミレス、なんなら飲み屋でもいいから行けよ、とツッコミを入れながら、ふと、ああ、場なんだな、と気がつく。特に約束をしなくてもゆるやかに仲間が集まり、ゆるゆるだらだらと進行する時間。「いつまでもいられる」場所なんかじゃなかったのは、わかっていたはずだったよね。

 もちろん「部室なんかなくても、どこでも」っていうほうが強い気もする。だけど場への焦がれは否定できない気もする。最近はそんな場をつくろうとしている人もいっぱいいそうだし、インターネットが似た役割を果たしているのかもしれない。坂口恭平のモバイルハウスみたく、モバイル部室があってもいいな。グローブとボールとビールを置いとくんだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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