#31 ソ連

2014.04.10

 世紀末は終わり、新世紀が幕を開け、その熱もさめた2014年。テレビを観ていて、そこに「日ソ」と表示されていたら、それは決して日本とソビエト連邦のことではなく、北海道日本ハムファイターズと福岡ソフトバンクホークスを意味する。プロ野球の話である。日ソの対決。日ソの三連戦。一年に何回も敵地に乗り込み合う日ソ。おだやかじゃない。

 ソチ冬季五輪を経て、ロシアのことはもとよりソ連のことを思い出した人も少なくないのではなかろうか。おそらく僕よりも上の世代の方々だと思うが。

 ベルリンの壁が崩壊した1989年、僕は小学二年生だったよう。ソ連という国(という認識)があるということはなんとなく知っていて、地球儀を見て「とにかくでっかい」ということだけは知っていて、で、そんな状態でゴルバチョフがどうこうとかいって、わちゃわちゃしているうちに崩壊。つまりはソ連のことを、学校できちんと習う前に、崩壊。そんなタイミング。ソ連は僕にとって、ギリギリで「歴史の教科書の中の出来事」である。

 なんせ中学一年の社会科で地理を習うタイミングがちょうど過渡期で、たしか独立国家共同体(CIS)とかいうのを習ったような記憶がある。当時の先生方の苦労がしのばれるし、当時の僕としては「ようわからんけどテストにどこまで出るんだろう」と不安になったものだけれど、大人になった今にして冷静に考えれば「先生だってよくわからん現在進行形の事柄をテストには出さない」。不安になって損した。

 それもあって、かつ大人になってから著しく不勉強なのもあって、恥ずかしながらじつをいえば僕の中で「ソ連」というものがなんなのか、しっかり腑に落ちきっていない。「国(という認識)」と前述したとおり、国かどうかがいまいちよくわかっていないのだ。だって、ロシア語だし。ロシア人だし。「ソ連人」って呼び方してた? 子どもだったしわからないけどちょっと記憶にない。「連邦」っていうぐらいだから、色んな国が集まってできていたのだ。それはわかるのだが、でもその「一つ一つの国」ってどういうこと? パスポートは「ソ連」だったの? などなど。ま、ちゃんと調べればわかるんだろうけどすみません。高校世界史の吉田先生すみません。

 とはいえ崩壊から二十年以上が経つ今も、僕らはソ連のことを忘れていない。ポール・マッカートニーは今もBack in the U.S.S.R.を歌うし、ストリートファイター2のザンギエフステージはU.S.S.R.だ。僕でギリギリ、僕の親、祖父母ぐらいまではもう、どっぷり「ソ連」世代なはずだ。東西冷戦だ。スパイだ。落合信彦だ。「帰れソレントへ」のソレントがイタリアにあることにほのかな違和感を拭い去れない人々だ。

 ソ連はさも「昔から、ずーっとあるもの」のように見えて、しかしながらもっとロングスパンで見れば「昔から、ずーっとあるものではない」。生稲晃子がロシア革命。1917年以前にソ連はなかったのであるから、僕のひいひいじいちゃんぐらいからすれば「ソ連? あー、ロシアね。ロシア的な」ってなもんだろうし、ひいひいひいひいじいちゃんぐらいからすれば「ソ連? あー、イタリアね。地中海的な」ってなもんだろう。たぶん。当たり前のもののように見えて、実は長い人類の歴史からすれば特殊、というケースは他にもたくさんあるし、ソ連は僕にそのことを思い出させてくれる。フィギュアスケートで、ロシアの選手がいかにもアメリカ大衆文化な曲とテーマで演技するのを見るたびに、僕はほんの僅かな驚きとともに、そうか、別に普通のことなんだよな、と思い直すのだ。イリーナ・スルツカヤの真っ赤なカウボーイのプログラム。

 しかし改めて考えれば「ソ連」って超乱暴な略し方だ。ソビエト連邦をソビエトって呼んじゃうのは不正確だというのはわかる。ソビエトって「評議会」って意味だっけ? 要は地名じゃないわけで、それはわかる。けれど、ソビエトを「ソ」ってどういうことだ。津か。そこは「ソビ連」でいいんじゃないのか。それでもソ連がいいっていうなら、じゃあアメリカ合衆国は「ア合」でいいな。文句ないな。なんだこれどうやって読むんだ。あがっ。I got it. はからずもアメリカンな感じか。

 北海道、まして小樽に生まれた僕にとって、ロシアは遠いようで近く、近いようで遠く、そして現代を生きる以上はソ連という歴史も決して避けては通れないだろう。ロシア語圏で日本語教師になったという中学の同級生のS君、いつか会ってゆっくり話してみたいなと思っております。あと、今、無性にマンガ『勇午』のロシア編を読み直したい。

 ソ連関係の社会科用語では「ペレストロイカ」よりも「グラスノスチ」が好き。これは響きだけの話。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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