#29 工作

2014.03.27

 ずうっと「そそっかしい」のだと思っていた。昔から肝心なところで失敗してはやりきれない思いを抱えてきた。まるで「お調子者」とか「物静か」のように、性格の問題だと認識していた。それもあるかもだけどそうではなくて、根本的に「手先が不器用」だと明確に自覚したのは、大人になってから。今の職場、広告制作会社に勤務するようになってからだ。

 まわりにはグラフィックデザイナーさんたちがわんさか。彼らは文字の組み方やフォントの選択、写真の配置、色づかいなどなどグラフィックの制作能力があることはプロなのだからもちろんなのだが、それだけではないのだ。紙をきれいに切るだとか、それらをぴったり貼り合わせるだとか、案件によっては紙で簡易な模型をつくったりであるとか、そういったことを、カッターと糊で難なく、いとも容易くやってのける。あの人たちはそのすごさがきっとわからない。できちゃうから。でも、僕から見ればそれはすごいことだ。企画書をホッチキスで留めて製本テープを貼る、そんな作業すらおぼつかなく失敗するのが常である僕からすれば。

 彼らには技術がある。そりゃあプロの目線からすれば、技術的なことなんかは二の次でグラフィックデザイナーとしてはもっと大事なことがあるんだよ、という主張もわかる。でも。そもそも得意じゃなけりゃ楽しいとも思わないだろうし、楽しいと思ってなけりゃ目指すこともしないだろうさ。

 感性やセンスと呼ばれるものがどれだけあろうが、つくりたいものが泉のように湧き出てこようが、自ら動かす手を愛することができなければ、自らの手でものをつくろう、つくり続けよう、あまつさえ、それを生業としようとは考えないと思うのだ。ビジョンやアイデアを具現化させるということがポイントなのだとすれば、違ったアプローチがあるはずだ。起業とかね。

 ノッポさんもゴン太くんも大好きだった。夢中で見ていた。でも、できなかった。できるかな? できなかった。

 今にして思えば図工という教科。図画と工作をいっしょくたにして、平面の絵を描くことと、立体的なものをつくること、それって別物じゃないの? と思わなくもないが、やっぱり得手不得手といったときに、それらには通ずるところがあるのだろうと経験的に思う。先天的か後天的かは別にして、平面・立体を問わず。その能力は「見たもの」を「表現できる」という精度の高さだ、という話を読んだことがあるけれど納得だ。もちろんそこんところをベースに、技能の向上やノウハウの蓄積はあるのだけれどね。串田孫一のエッセイに登場する、戦前のエリート中学校的なものにあったという「用器画」という教科。読んでいて非常にワクワクしたのを思い出す。とっても実学的で、そういった修練をセンスとは別の次元で積ませてくれるようで。

 ティッシュの箱で宝箱つくるのが好きだった。エリエールの小花柄の箱で、鍵は爪楊枝でつくるのだ。ハサミちょきちょき、セロテープべたべた。誰に教わるのでもなく、自分で考えてつくったパターン。やたら愛着があったし、いくつもいくつもつくったものだ。セロテープべたべた傾向は小学生になっても変わらず、糊で接着するのは苦手だった。カッターで真っ直ぐに切るのも今に至るまで苦手だ。図工ではBまでしかもらえたことがなかったなあ。Aをもらってた同級生Kは、やっぱり絵を描くのもとっても上手で、この前フェイスブックで再会したらグラフィックデザイナーさんになってたよ。

 そんなわけで僕は、僕に欠けている能力すなわち「工作」に対する憧れを近年ことさらに思いだし、意識している。今の職場からときどきお仕事をお願いしている造作屋さん、といえばいいのか、商業施設のディスプレイや催事のブースから、店頭のちょっとした什器、地域のおまつりで使うリアルな鬼のお面まで、なんでも手がける方がいらっしゃって、なんかもうものすごく尊敬しているのだ。こんなこといったら怒られるかもしれないけど、「工作」をとことん突き詰めて、そのまんま仕事になったようなことだろう。

 ところで現代社会のニュースを眺めていたり、ちょっとした政治がらみ・スパイものの映画を鑑賞していたりすると、工作という言葉の意味は異なってくる。それが指す行為を具体的にどうとは言い表しにくいのだが、まあつまりは、国家間を非公式に股にかけつつ暗躍する系の活動のことを工作と呼ぶらしい。どっちの意味が先にあったかしらないけれど、工作という語のもつ二つの意味、そのあまりに大きなギャップに戸惑うばかりだ。

 ノッポさんを「工作員」と呼んでみるのはどうだろう。最終回まで一言も喋らなかった彼は、工作員だったという仮説。または、ゴン太くんは世を忍ぶ仮の姿で本当は。国家転覆できるかな? ンホンホンホ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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