#28 部屋着

2014.03.20

 家から一歩も出ないときに着るものだけが部屋着だろうか。必ずしもそうはいえないように思うのだ。部屋着には、段階があるようだ。家から出ず家族以外とは誰とも会わないという場合。家からは出ないのだが宅配便や回覧板など来訪者に対して玄関でやりとりするような場合。外へは出るのだがあくまで家の直近、ゴミ捨てや、外の物置に用事があるような場合。近所のコンビニなどまで買い物に行く場合。車に乗ってスーパーまで行っちゃう場合。などなどなど。外出先、周囲の人々に対して「え、ここで、その格好?」と感じることもなくはないが、要はその人にとっての距離感、なのだろう。「ワンマイルウェア」なんてジャンルもあるようで、うまいこと言ったもんだなあと思う。マイルなんて日本人にとって全然なじまないのに、なんだかしっくりなじむかのようなその名付け、老練である。1.6kmウェア。

 夏と冬とでまた事情は変わってきそうだ。例えば漫画『よつばと!』に出てくる在宅ワーカー「とーちゃん」は、物語の当初すなわち夏場はトランクスとTシャツ姿ばかりだったが秋になってようやくズボンを履き長袖を着るようになったし、そうなった途端に彼の部屋着は、外へ出かけるときの格好と大差なくなってしまった。夏はできるだけ裸に近くありたいが、それは外出着とは乖離していく。僕の住む北海道ではクーラーが一般家庭にはそれほど普及していないから、なおさらかもしれない。

 部屋着である以上はコンフォートでなければ、楽でなければならないというのがまず一つ。そして、どこまで人の目を気にするかというところがもう一つ。

 でも、こうして書き出して並べてみて、思うのだ。「人の目を意識する」ことと「コンフォート」とは、べつにぜんぜん矛盾するものではないということを。もちろんかけられる費用という意味で優先順位はあろう。かつては外出着として着ていたヨレヨレの服を引退させて部屋着として再雇用するというのも理に適っているかもれしれない。だけども。別に家族しか見なくても。別に自分しか見なくても。お洒落すればいいと思うのだ。ゆったりとした楽な格好で、無理のない範囲の予算内で、お洒落をするのはきっと楽しい。楽なのは大切なことで、ただ、楽だけになってしまっては。部屋着にも緊張感を。と思う今日この頃である。自戒を込めて。

 とはいえ僕の場合、たいへんありがたいことに勤め先でも普段からコンフォートな格好でいられる。ネクタイって何だっけ状態である。ということは、もしかするとそもそも「部屋着」が要らないのかもしれない。わざわざジャージ着てる必要ないのかもしれないのだ。そこで先日、ささやかなチャレンジをしてみた。

 自宅で仕事をする人にとっていわゆる「仕事モード」に気持ちを切り替えることはなかなか簡単ではないことのようで、そのためにどのようにすればよいのかというノウハウを紹介するような記事は多い。で、そのなかでよく登場するものに「着替える」というのがある。たとえ家から一歩も出ないのだとしても、まるで家を出て職場へと行くときのような服装にチェンジすることで、マインドもチェンジしてしまおうということらしい。たしかに服装には、心持ちを変える力がある。しゃんとした格好をすると、しゃんとしなくちゃならんという気分になるものだ。

 僕も会社勤めの身ではあるが、休日に自宅で仕事をするということが以前からよくある。とはいえ僕は根が怠惰なのと、ついつい先送りしがちな自分と見通しに甘い人間なので、気がつけば日曜の夜、なんてことも正直ぶっちゃけ少なくない。こんな自分キライ! キライな自分を卒業したいの! てなわけで、僕も先人のノウハウの恩恵にあずかろうと真似をして着替えてみたのである。ばばーんと。休日の朝、パジャマから、いつもの部屋着のジャージ、ではなく、出勤するのと同じ格好に僕は着替えた。それはもう着替えた。戦闘服に着替えた。ビシッといったった。ジーンズ(シャキーン!)Tシャツ(シャキーン!)パーカー(シャキーン!)よっしゃいっちょあがり! さあどうだ鈴木! 働きたくなってきたろう鈴木! うん、特に気分は変わらない! さて、桃鉄でもやるか……。

 映画や漫画の登場人物は部屋着でもなんかお洒落だけれど、みんな実際のところ家では何を着ているんだろう。誰とも会わないときでも女子はなんかざっくりいい感じの服着てるのかなみんな。それはなんだかエロいよなあ。それともみんな、じょたーっとした、しみったれた、高校時代のジャージとクラスTシャツとか着てるのかな女子は。それはそれでなんだかエロいよなあ。人の目を気にしているのもエロいし、人の目を気にしていないというのもエロい。なんなんだ。家でみんな。エロいよなあ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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