#25 コードレス

2014.02.27

 今風に言うならばワイヤレスなんだけど、あえてコードレスと呼んでみたい。まずひとつ確認しておきたいのは、大体の場合それは、ワイヤーであるよりコードだということだ。だよねですよね昔も今もなにかっちゃ「コード」ですよねわれわれの暮らしの中にあるアレは。電源ワイヤーっていいますかあなた。通信ワイヤーっていいますかあなた。そのうえワイヤーでなくワイヤっていいますのんかあなたは。えっ、ケーブル? うるさいな!

 今でこそワイヤレス当たり前、ワイファイばんばんとびまくりでどれが自分のかわからなくなるほどの都市の暮らしであるけれど、僕にとってのワイヤレス初体験はコードレス電話だった。なのでコードレスと呼んでみたかったのである。小学3年生、放課後、同級生のM君の家。ラジコンカーもトランシーバーも持っておらず、当時まわりに持っている友達もいなかった僕にとっては、そのコードレス電話が初めての、劇的体験だったのだ。

 携帯電話なんか誰も持っていない頃のはなしだ。親機と子機の間の通話。お互いの声が聞こえる部屋の中ではまだ、起きていることがよくわからない。コードレス子機は、部屋を出る。別の部屋へ行く。おお、となる。そして、ついに子機は、玄関から外へ。青空の下へ。僕は部屋に待機する側。応答せよ、応答せよ。おおおおお。聞こえる。どうして。どうしてしゃべれるのこれ、M君。

 僕の実家はずっと黒電話だった。ジーコジーコの黒電話。びょんびょん伸びるカールコードねじねじ、変な方向に巻いちゃって戻らなくなってあせあせ、である。21世紀に入ってようやくどこかから貰ってきたプッシュホンを導入したようだが、今も変わらず「コードあり」。ところで電話に関していえば、携帯電話のことも考慮すればいまやコードありのほうが珍しくなってきているといえるかもしれない。どこかの職場にお邪魔したとき、デスクの固定電話すらコードレスだったのを見てびっくりしちゃったことがある。

 中学の頃、アマチュア無線が趣味の友達がいた。アマチュア無線ってどういうものなのかいまいちよくわからなかったけど、勉強して資格を取って、家にある父親の機材を使って、なんだか遠くの船と通信をして楽しんでいるようだった。通信それ自体が趣味になる、というのがすごいなあと思うけど、いまのSNSとかも似たようなものなのかもしれない。ある発信があって、そこに反応がある。それが面白い、ということは、あるのだ。そこに中身は関係ないのだ。

 無線という言葉自体は線がないということしか意味していないのに、イコール「無線通信」になってしまっている。それは「携帯」が「携帯『電話』」を指しているのに似ている。そういや「有線」が「有線『放送』」を指すというのも、大人になるまでよくわかっていなかった。

 コードレスってすごい。コードレスは僕らを自由にする。もっとどんどん、いろんなものがコードレスになればいいと思う。手や足に引っかかり、からまり、ねじれ、ホコリをためて、みっともない。こんな邪魔ものが、コードのほかにあるだろうか。

 家の中にあるもので、コードレスになって俄然よかったと思っているのは、据え置きゲーム機のコントローラーだ。わが家でいえばWii導入時の感動。超画期的。超らくちん。姿勢がこりこりかたまりがちなゲームプレイ時、ソファに寝そべりながら、からだをうーんと伸ばしながら、どんな姿勢でいてもストレスなく操作ができるというのは、もう、人間を解放しているようでいて、さらに強固な見えない鎖を発明してしまったのではないかと思うほど。

 見えない。そう、コードレスは、見えない。それが、たいていの場合はポジティブに機能するが、時折ネガティブに転ぶことがある。コードがあることのいいところは「目に見えるかたちで、瞬時にオフラインにできること」だ。要は「コードを抜く、あるいはぶっちぎる」ことで、つながりを遮断すること。コードレスには、それができない。

 それが電話であれインターネットであれ、いつの間にかつながっちゃいけないものまでつながって、漏れちゃいけないものダダ漏れなんてことは起こりうる。そんなとき、即、確実に、コネクションを切るためのアクション。そこがアナログな人間のからだと即、確実に通じ合っていること。これって、けっこうな安心感だと思うのだが。

 もしかするとこの感覚は、あくまで僕にとって「コードがあること」が世界理解の根っこにあるからなのかもしれなくて、物心ついたときから電話もゲームもコードレス、という世代の人々にとっては、そもそもコードレスって言葉自体が、コードって何? みたいな、ピンとこないことになるのかもしれない。見えないけれどつながっているのが普通で。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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