#22 雪玉

2014.02.06

 雪道を仲良く歩く親子を見た。路肩にうずたかく積まれた雪に興味津々、歩みが遅くなる男の子。歩みを変えずに「暴れるんじゃないよ」と先をゆく若ママ。「それは無理ってもんだろう。暴れるに決まってるよ……」と思って僕は見ている。だって雪だよ。真っ白くてきれいな雪。まして男の子は、ジャンパーに、下も冬用のナイロンのズボン。手袋に、帽子に、長靴。全身フル装備の雪遊び仕様だ。

 ところが男の子は、ちょっと雪をさわり、そして、特に暴れるでもなくトタトタと、若ママの歩みに追いついたのだった。ちょっと肩すかし。ちょっと寂しい。ちょっと違和感。違和感の原因に半歩遅れで気づく。「あ、雪玉つくらないんだ。」

 さいきん雪玉を見ていない気がする。雪玉そのものも、雪玉をつくる子どもも、雪玉がぶつけられた壁や看板や電柱を。土地柄だろうか、僕の活動している時間帯だろうか、それとも時代なのだろうか。つくる様子、投げる様子、もてあそぶ様子、そして壁や電柱に投げつけた跡。最後に見たのはいつだったろう。

 喜び庭を駆け回るほどではなかったにせよ(そんなに広い庭もなかったし)、積もればわくわくしたものだ。北海道の中でも雪の多いほうの地域に生まれ育った僕にとって、雪は完全無料の玩具だった。けれど思えば、雪だるまをつくったことはほとんどない。かまくらをつくったこともほとんどない。きっと子どもにとってはたいへんすぎるからだろう。そうとなればやはり、雪玉である。

 即、雪合戦かといえばそうではない。合戦形式はマストではない。ふたりでキャッチボールをするかのようにゆるゆると投げ合うのも楽しい。そして、ひとりでもじゅうぶんに楽しいのが雪玉だ。本気の雪合戦ではなくとも、遊ぶ覚悟を決めなくとも、路傍の雪をひょいとすくって、手慰みにこしらえて、そんで、適当に投げる。手近な的を狙うでもいいし、遠投と洒落込むのもいい。そのインスタントさがいい。

 特に道具も使わず、金もかからず、技術も必要ない。その簡便さ故に、玄関開けたら二分で雪玉であるが故に、気をつけたいのは通行人だ。僕は以前、駅前の幅広な国道沿いを歩いていたら突然、スッパーンと側頭部を殴られたような衝撃、はじめ何のことかわからず狼狽。自分の背後にも近くにも誰もいない。ふと、国道を挟んで向かい側に、やっべーみたいな顔した男子がふたり。その表情からして僕を狙ったというわけではなく、きっとなにか看板か電柱あたりを狙っていて誤って僕の側頭部に命中したのだろう。特に何もいわず許してやったけど、こっちが怖いお兄さんじゃなくてよかったな! この野郎! 通行人には気をつけよう。いやほんとに。

 その男子、なにも子どもというのではなく、高校生くらいに見えた。雪玉は子どもだけでなく、青年、そして大人を魅了する。水辺に行ったら平たい石を探して拾いたくなるだろう、そして水切りのひとつやふたつ試してみたくなるだろう、そして「やっべ肘痛ぇ」とか言ってみたいだろう。それと同じだ。

 よい雪玉をつくるには、いくつかの条件が必要だ。まずは何より、雪の質である。北海道の冬は気温が低く、いわゆるさらさらふわふわのパウダースノーといわれる。スキーやスノーボードに理想的なその雪質は、雪玉には不適切だ。あまりに乾いている雪は、押し固めようとしても固まってくれないから。どちらかといえば汁気を多く含んだ雪のほうが雪玉づくりには向いているけれど、あまりにべちゃべちゃだとこれもまたつくりにくい。水分が手袋にしみてきて気分が落ちるし、どこかにぶつけようとするには重たすぎて危ない。ふわふわすぎてもいけない、ベタベタすぎてもいけない、ギュッとしやすい雪質というものが、たしかにある。

 また、手袋にもこだわりが必要だ。毛糸の手袋をはめて(北海道弁でいえば「はいて」)いては、雪が手袋にくっついてしまうので雪を思うように整形できない。できればスキーのときのような、表面がナイロンのように水分を弾く素材でできているものが望ましい。ギュッと圧を加えた後、表面をさすりながら丸くかたちを整えるときにもすべすべとしてやりやすい。あまり滑りすぎるとファンブルしてしまうが。ただし、手が冷たくなるのを我慢できるなら、本当は素手が最もいい。力を入れやすいのはもちろん、表面を手の熱ですこしだけ融かしながら、好みの硬さまでガッチガチにしていくことができるからだ。

 仲良し親子の男の子がさわっていった雪の跡を見た。雪玉をつくるにはちょうどいい雪質に見えた。僕自身、何年もつくっていないことに気がついて、素手でその雪をすくい、大人の握力でガッツリ圧縮。周囲に通行人も車もいないのを確認して、ほんの三メートル先の電柱を狙った。真剣に狙ったのに。んで、すっかり冷えてかじかんだ手がキーボードを打つのに差し支える。やんなっちゃう。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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