#20 連絡通路

2014.01.23

 誰が呼んだか「シベリア街道」。僕が通った高校の本校舎二階と「記念館」なる小さな二階建て施設の二階とを結ぶ連絡通路。一般の生徒はそう滅多には通らない、ただし僕たち演劇部員は放課後、部活動のために毎日通った路。全校生徒のごく一部しか知らぬその寒々しい名は、記念館で行われる部活動の厳しさのためでも、部活動の閑散とした様子のためでもない。冬のあいだ、ただひたすらに寒かった。即物的に寒かった。えれー寒かったのである。三回言った。

 北海道の冬である。本校舎には当然、暖房が入っている。記念館は日中だれも使用しないため暖房は入っていないのだが、それでも部活中には灯油ストーブをぼんぼん焚く。そして、それらをつなぐ連絡通路には、まったく火の気がない。たかだか二十メートル足らずだったと思うが、ちょっと本校舎側(そっちに部室があった)に忘れ物なんつって、通るだけで体が芯から冷え切るように凍えたものである。冬の温泉宿で、大浴場から露天風呂に出てあったかーい湯船につかるまでのちょっとしたアプローチのような、おお寒い寒いなんつってあの感じ。おまけに鉄のドアも「ずーん」って閉まるし、アクティブな部員が自分一人だったときなど、非常に寂しく、いろいろと身にしみたのを思い出す。あの路を毎日通る後輩、いまも寒がっているだろうか。そもそも後輩はいまもいるんだろうか。ああ、遠い日のなんとかである。

 ちなみに夏はどうだったかといえば、暑いかっていうとそんなこともなく、むしろちょっとひんやりとしていた気がする。冷房なんて当然なかった高校で、陽光が入らないわけではなかったと思うのだけれど、どうしてだろうな。

 連絡通路はたいてい、屋根と壁はあるがそれ以外はむき出し吹きさらしの空間である。そしておおむね冬は寒い。両サイドの建物からのおこぼれ暖気はあったとしても、連絡通路自体に空調を入れているところはあまりないのではなかろうか。雨・風・雪をふせいでくれて非常にありがたい存在なのだが、その寒さはもしかして外のほうが暖かいのではないかと思わせんばかりだ。これが百貨店だとそれほどの悲壮感はない。そんなに寒くないし。札幌にもあるけれど、道路を挟んだ百貨店の本館と別館的なもの同士をつなぐ連絡通路。それも、けっこうな高い階同士をつなぐもの。中を通るときはなんとも思わないけど、外から見上げると、ときどきぞっとすることがある。もちろんもろもろ大丈夫なようにつくられてるんだけど、それはあまりにもむき出し吹きさらしで無防備に見える。

 ふつう「連絡」といえば、それは小雨がぱらつき気味の朝に遠足が決行か中止かを知らせる電話だとか、すてきな飲み会の日時と会場について参加者みなさまに一斉メールとか、つまりは情報の伝達という意味が一般的だと思う。僕はこの言葉をおぼえてからずっと、そのように使ってきたけれど、連絡通路の連絡はシンプルに「(物理的に)つながっている」ということだけを表しているようだ。「連」は連なる。「絡」ってなんだ、ああ、絡む、か。「むすばれている・つながっている」というほうが意味としては原義っぽいというか、概念的に広くてプリミティブな感じがするのに、そっちよりも限定的な使われ方のほうが一般的だというのがなんだか面白い。単語数の少ないラテン語が一単語に多くの意味を持たせている(持たせざるをえない)ように、言語は成熟していくと、細分化していくものなのかもしれない。そして、その先祖返りの感触が、一周まわって面白くなっているのかもしれない。かもしれないの連続。調べないけど。ところで鉄道の文脈での「連絡」という使い方も、肌触りの違和感がカシミヤのように心地よくて好き。

 連絡の通路であるならば、電話番号やメールアドレスを知っているということを「連絡通路」と呼んでもよいのではないだろうか。ただし、一方通行では連絡通路ではない。私があなたの連絡先を知っていて、あなたが私の連絡先を知らない状態ならば「連絡通路」とは呼べない。こちら側とあちら側、此岸と彼岸とをつなぎながらも彼岸に渡ればそちらが此岸。つなぐもの同士、互いの規模が同程度であれ、たとえ「母屋」と「離れ」をつなぐようなものであれ、どちらも往であり復であり、相互の行き来はイーブンなのが連絡通路。それは、心理的なハードルも含めて。となるとお互いに知っているだけではきっと足りない。そう考えたら、僕には何本の連絡通路が突き刺さっているだろう。

 連絡通路をつくろう。人と人との。今いる世界といない世界との。オカルトではなくて地に足のついた世界と世界。高い階同士でも、あっさりつなぐことはできると思うのだ。つとめて気軽に、爽快に、唐突に行き来できる路。きっと楽しい。つかの間の寒さに身を縮めることがあったとしても。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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