#18 白髪

2014.01.09

 三十二歳になったけれど、以前とおそらく一見たいして変わらない。もともと老け顔だからだ。いや、もともとというのは不正確で生まれつき老け顔だったわけではない。少なくとも大学を卒業するまでは、特に年上に見られたりすることなどなかったのだ。そして大学を卒業するやいなや、僕は新卒入社なのに得意先から「中途ですか?」といわれ、飲み屋さんのおねーさまに「三十四歳?」って言われた。実際みんな僕のこといくつに見えていたのか教えてもらえるかな怒らないから。

 突然老けて見られ始めたのにはいくつか理由が考えられるのだが(それまで僕自身の耳に入ってこなかっただけという説を含む)、ひとついえるのは僕の白髪が目立つようになったのも新社会人の年だということだ。目立つもなにもそれまで全く生えていなかった白髪が、就職した年に一気に増えた。あたま全体的にではなく、両サイドから攻め上がってきたのだ。学生の頃も洗面台で鏡を眺めて「白髪かな?」と思うことはあった。しかしそれはよく見ると黒髪が光の加減でそう見えただけ、ということばかり。自分のリアルな白髪は一度も、実のところ一度も見たことがなかった。それが突然、二十二の夏に。ちょっと思い当たる理由が全くないんだけど、まあそれが現実である。

 老けのことはそれだけで長くなるので本稿では割愛。老けて見えるのは別にいいのだ。ただ、中途半端な白髪によって頭髪がだらしなく見えてしまうのが差し支えるのである。白いのが混じっても毛並みが整っていれば問題はないのだが、僕の場合、元々の髪質が太めで癖毛なのもあってか白髪だけが妙によれよれで、あっちゃこっちゃ方角がバラバラ。これが非常にだらしなく仕上がる。毛抜きを持っていない外出先で、つい爪で挟んで抜こうとしてしくじって、縮れてしまった白い毛のさらなるだらしなさったら。

 その後しばらくして坊主にしたので、平時はさほど気にならなくなった。白髪の多いサイドは他より短く刈り上がり、ほぼ地肌。だが、坊主がすこし伸びかけてきたとき、その伸びかけた具合が白髪混じりだと目立つ。白は光るのだ。そのうえ毛の方角がアホだ。顔がだらしないのでせめて頭くらいは真面目ぶりたいのだが、なかなかうまくいかない。せめて整ったごま塩をキープできればよいのだが。

 昨年、坊主頭をやめて、久しぶりに伸びてきた髪をまじまじと観察してみると、いや観察するまでもなく、白髪はもはやサイドに留まらず頭頂にまでまばらに広がっていた。まあ、二十二で発生した白髪が十年経ってもそのまんまというわけもなく、黒をベースにきらきらと白いのが混じった状態。春先の札幌の路肩、うずたかく黒く汚れた雪山の裂け目から白いザラメのようなのがまばらに顔を出すような感じ。どだいうすうす気づいてはいたのだ。このところ顎に、鼻に、わずかだが白いのが混じっていることに。

 父親も若白髪だったらしい。子どもの頃に病弱で薬を飲み過ぎたから白髪になったと言っていた。今の今までなんとなく、白い粉薬のイメージと白髪のイメージがふんわり合致して納得していたような気持ちでいたが、ずいぶんと適当な話である。本当にそんなことあるのだろうか。特に調べはしないが。

 僕が物心ついたときには父の頭は白かった、かどうか、ちょっとわからない。というのも父はずーっと白髪を染めていたからだ。居間のまんなかに新聞紙を敷いて椅子を置き、上半身裸になって座る。母が古い歯ブラシに染め粉を付着させ、父のスポーツ刈りをトントンと叩くように染めていく光景が思い出される。そんな月一回の恒例行事も母が忙しくなってからはなくなり、父は行きつけの床屋で髪を染める(父曰く「頭を墨壺につっこむ」)ようになったけれど。というわけで父は僕にとって、昔から白髪だという認識はありつつも、真っ白い状態の頭を見たことがない、という曖昧な頭部を持った存在なのである。かなり減ったけど。

 あるとき白髪を染めた方がいいのかどうか美容師に相談したら「ビゲンがいいよ」って言われた。安くてバッチリ染まるのだそうだ。躊躇なくビゲンを薦めてくるこの美容師にずっとついていこうと思った瞬間である。で、いちど染めてみて、たしかに満足いく効果をもたらしてくれたんだけれども、髪を染めたことがなかった不慣れな僕は面倒でやめてしまった。それっきり。最近、コンブからつくられているっちゅうちょっとええカラーリンスを使い始めてみたのだけれど、どうなることやら。

 染めないのならもうもっと白の分量が増えてしまえばいい。けど、真っ白は真っ白でまたどうだろうな。ロマンスグレーの神様。わりとふつう。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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