#17 うせもの

2014.01.02

 おみくじに項目が用意されているぐらいなのだから、商売とか恋愛とか健康とかと同等のレベルで人類はそれと向き合い、戦ってきたのだということがわかる。

 とはいえ人生において重要と見られがちなテーマと軽く見られがちなテーマというものはあって、うせものは随分と軽んじられているほうだ。まあ、わかる、だって地味だもの。出世するのしないのだとか男と女のほれたはれたなんていう、さも人生を左右しそうな事案に比べれば、なくしものが見つかるかどうかなんていうのはあまりに些細、のように見えるのは仕方ない。そもそも向き合おうにも姿は見えず、戦おうにも拳は虚空をさまよう。暖簾に腕押し、糠に釘、うせものにやる気。そりゃうせる。

 それでもみんな知っているのだ。うせものをやっちまったときの、あの焦りを。さがしてもさがしても見つからずついに諦めるかどうかという決断の困難さを。諦めた後の諦めきれない虚無感を。ものをなくしたことのある全ての人は知っているはずだ。つまりは、ものを所有したことのある人はみな、知っているはずなのだ。

 どっちかっていえば、よくなくすほうだ。根本には、そそっかしい性格とか、不器用な手先が関係しているんだと思う。指先まで意識が行き届いていないため、何かを引っかけて落としたりということに気がついていないことがある。不器用なりに「ミニ四駆」に執心していた小学生の頃などは、ローラーを留めるネジやワッシャー、シャフトまわりに使う鳩目などの細かい部品にキリキリ舞いさせられていた。もし僕がピアスなんかしていたら週一でなくす自信がある。すべてのピアスを片方ずつなくす。

 細かいものならまだしも、大きなものをなくしたときはほんとうに情けない気持ちになる。よくやってしまうのは、ものを普段と違う場所にポンと置いてしまったとき。あれ、ないぞ、ないぞ、ないぞとさんざんぐるぐる部屋の中を歩き回った挙げ句「逆にどうして見つからなかったのかわからない」ような白日の下で発見される。見えていたのに見えていなかったそれ。自作自演のミスディレクションに、ぐったりする。人は見つけにくいものばかりをなくすわけではないし、それよりあんたと踊るわけにもいかないのである。

 深刻なのは書類。仕事の書類だ。さがしている時間が本当にもったいないし、いよいよ見つからないとなれば大なり小なり損失だ。佐藤可士和の整理術の本にも書かれていたけれど、決して気分の問題ではなく業務上必要な営みとしての整理整頓、そしてうせものの排除の大切さ。超わかる。僕もそうありたい。これはシャレオツなオフィースで働きたいとかいう類のあこがれとは一線を画した切実な気持ちだ。デジタル化でだいぶ改善できるけれど、とはいえ紙でなくてはならない局面はまだまだ多いから。

 紛失を確実に避けるために必要なのは「システム」だ。ヒューマンエラーを事前につぶす仕組みづくりだ。たとえば僕は、仕事のノートは一冊と決めた。案件にかかわらず時系列にどんどん書く。以前はレポートパッド(オキナのプロジェクトペーパー)を使っていたのだが、なくしまくるのでやめてしまった。そのへんの裏紙にも書かない。案件別に整理できないという弱点もあるが「なくさない」という安心感と「ここだけ見ればいい」という明快さが僕に大ウケである。すぐには出てこなくても、絶対になくしていないと自信を持てること。これが精神衛生上どれだけのプラスになることか。特に僕のような、なくしがちな人間にとっては。

 それでもなお根絶には至らないのがうせものだ。やはり、うせものの話をするのであれば彼らの存在を抜きにはできない。いうまでもなく「こびとさん」のことである。さん付けは必須だ。さかなくんさんと同じだ。

 彼らは非常に勤勉である。メルヘンな存在だが遊んで暮らしているわけではない。やるときはやるやつらだ。僕が初めて「こびとさん」の存在を知った当時、彼らはたしか靴職人さんが眠っている夜間にトンテンカンテン靴を仕上げてくれるようなナイスガイズだったはずだけれど、いつの間にか転職したらしい。今では人類のうせものを主に取り扱っているようだ。

 もちろん僕とてイノセントな子どもではない。こびとさんたちが僕らの目を盗んで大切なものをかすめ取っている、などとは考えていない。それは明白な犯罪だし、彼らだってそんな雑な仕事はしないだろう。僕が確信するに彼らは、僕らの記憶に働きかけることができるのだ。「ものをここにしまったはずだ」「ものをあそこに置いたはずだ」という、その記憶だけをごっそりと抜き去ることができるのがこびとさんなのである。彼らは勤勉で、そして腕もいい。忘れた痕跡すら残さない。ただし、なくしたという記憶だけは残しておくからやっかいなのだ。それすら忘れてしまえれば、なくてもいいものはたくさんあるのだ。


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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