#12 平成

2013.11.28

 もうすぐ平成25年も暮れようというのに、いまだに僕は今年のことを平成24年と思っている。

 仕事柄文字校正を行う機会は多く、日付は言うまでもなく重要なチェック項目だ。売り出し期間やキャンペーン期間、イベントの日程などなど。広告の年月日が間違っていたら大変だ。ほうぼうに迷惑がかかる。文字校正の敵は人間の思い込みであるから、わかっているつもりでも必ずカレンダーと見比べる。日付と曜日がずれていないか、その日は祝日じゃないか、11月なのに31日とかやっちゃってないか、などなど。そして、年。ふつうは年をまたぐような広告物でなければ年なんかわざわざカレンダー見なくても自明、なのだけれど、今年は必ず見る。そして、見るたびに「あっ、平成25年だった」ってハッとする。その流れがもはや予定調和になっているくらい。

 元号の存在感が薄れてずいぶんと経った。誰もがようやくノストラダムスを忘れ、Y2K問題を思い、カウントダウンに「2000」の眼鏡をこぞってかけた2000年というのは平成12年のことだが、それ以降現在にいたるまで日本の歴史上、これほどまでに元号がかろんじられた時代があっただろうか。仮にあったとすれば、たとえば日本古来の年の数えかたに「皇紀」というのがあるが、そっちのほうが元号よりもメジャーになっていた時代や地域があったりするのだろうか。わからないが、あったとしてもそれぐらいじゃないか。なんて調べもせず書くが。

 千年に一度の強烈さで否応なく西暦を意識した日本人は一気に西暦になびいた。しょうがない、だって千年に一度のキリのよさだもの。それでも昨年までであれば少なくとも僕は、だいたい五月か六月、初夏の頃には「今年」というものがすんなりしっくり腑に落ちていたのである。西暦も元号も。ところが今年だけはなぜだか、元号だけが全然だめだ。平成25年が僕に定着してくれない。西暦と平成は偶数奇数が同じだから、2013年で平成24年はおかしいのだ。冷静に考えればわかるのだが……。

 昭和64年1月、僕の7歳の誕生日に昭和が終わった。そしていま平成25年が終わろうとしている。つまりあれからもうすぐ25年が経とうとしている。「昭和か!」というツッコミを僕は好きでよく使う。昔の歌謡曲や古いドラマからの引用、ことばづかい、そのほか古いムードを醸すあれこれに対して。ただし気をつけなければいけないのは、僕らが古いと感じているもののうち、昭和ではなく平成のものが既に少なくないということだ。

 平成元年は1989年。ざっくりいえば90年代以降はすべて平成。意外とあの曲もあのドラマもあの流行語も平成だったりするから要注意だ。だってもう25年なんだから。みんな自分の年齢から25を引いて、その頃どんな服を着てどんな遊びをしていたのか思い出してみたらいい。「平成軒」という名前の飲食店が「伝統の味」を売り文句にしていても笑ってはいけない。仮に元年創業とすれば、25年も続いていればたいしたもんだ。1993に恋をしたあなた、その年は平成5年です。夏の日の平成5年。

 平成25年は昭和88年。なんて、平成を昭和に換算して考える機会もかなり減った。僕は昭和の末の生まれだから、自身のことを「昭和の人間だ」と思ってきた。これまでは。平成生まれの人たちのことを「平成生まれか〜!」なんて言ってきたりした。これまでは。「平成生まれのFカップ」というキャッチフレーズも今ではなんだか懐かしい。もはやFカップを売りにするなら平成生まれであることはほぼ必然だ。HカップのHはHEISEIのHだ。Hがジャンプ! ほら早く! もっと高く! いいよ! いいよー!

 つまり何がいいたいのかといえば、僕のような昭和後半〜終盤生まれの人間は、昭和生まれではあるけれど昭和の人間ではない。たとえば100年後、仮に僕らのことが教科書に載ることがあったとして、僕らは何時代の人に分類されるだろうか。現在のところ、僕のコアな活動期は平成だ。自身を昭和の人とばかり思っている僕は、すっかり平成の人なのである。歴史上の人物について調べてみるとき、明治の人と思ってる人でも生まれは江戸時代だったりして、ああ、そうだよね生まれたときはね、なんて思うように。

 これだけ元号の存在感が薄れた日本で、100年後に「平成時代」を思い出すことになるかどうかなんてわからない。けれどそれはそれとして僕は、襟を正して真剣に平成をまっとうするときが来ているのかもしれないなあなんて思うのである。今というものの名前としての平成。古き良き昭和のことは「三丁目の夕日」で清算がついたということにしていいんじゃないか。古き良き昭和なんて見たことないしさ。ジャンプ!


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鈴木拓磨 SUZUKI Takuma / suzukishika(鈴木鹿)

コピーライター。札幌の広告制作会社に勤務しています。
1982年早生まれ / 小樽市出身 / 札幌市在住 / 文房具とビールが好物
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